「何もしない時間」にだって、大きな価値がある

日本にいた頃の私は、「休むこと」に、どこか罪悪感を抱いていたように思います。

仕事に家事に人づきあいに、何かをしていることが大事で、何もしていないと「怠けている」とみなされるような空気が、知らず知らずのうちに染みついていました。疲れていても「頑張らなきゃ」、調子が悪くても「気合でなんとかしよう」と、忙しいことが充実している証なんだ、と思い込んでいました。

「何かに追われていないと不安になる」「手を止めることが怖い」。そんな感覚が、いつしか日常になっていたように思います。自分の体調や気持ちよりも、予定や周囲の期待を優先してしまう。ほんの少しでも立ち止まると、「サボっている」と思われるのではないかと気にしてしまう。

今振り返ると、あの頃の私は、ちゃんと「休むこと」の意味を知らなかったのかもしれません。でも、この「常に動いていなければならない」という感覚は、日本社会に深く根ざしたもののように感じます。

電車に乗ればみんながスマートフォンを見つめ、休日でも何かしらの予定を詰め込み、空いた時間があれば「時間の有効活用」を考える。まるで立ち止まることが悪であるかのように、走り続けていました。

でも、スペインに来てから、その価値観がガラリと変わりました。この国の人たちは、本当に上手に「休む」のです。夏になると、多くの人が1ヶ月近い休暇を取り、海辺の別宅や山の村でのんびり過ごします。土日も、朝から予定を詰め込むのではなく、朝食のあとにふらりと散歩したり、親しい人たちとおしゃべりを楽しんだり。「何もしない時間」が、堂々と人生の一部になっているのです。

出所:『』
出所:『自由で、明るく笑って過ごす スペイン流 贅沢な暮らし』(大和出版)