近年、「終活」という言葉が一般的になり、家族に負担をかけないための生前対策として関心が高まっています。一方、そんな終活を謳ったセミナーを入口に、不当な勧誘や押し売り、高額商品の販売など、高齢者の財産を狙った悪質な行為が後を絶ちません。60代の大野夫妻(仮名)の事例から、終活に潜むリスクとその対策をみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。
目ぇ覚ませ!69歳元教師の夫が妻に激怒…原因は「子どもに迷惑かけたくない」と躍起になる66歳妻の“暴走”【CFPが警告】
忠男さんが妻に抱いた違和感の正体
ある日、上機嫌で帰宅してきた和代さんは、忠男さんに言いました。
「今日、お墓を契約してきたの」
「えっ、お墓? ちょ、ちょっと待ってくれ、相談もなしに突然どういうことだ」
あまりにも唐突な発言にうろたえる忠男さん。聞けば、セミナーに登壇した葬儀社の担当者から「生前に購入したほうが割安で手に入りますよ」と勧められ、400万円の墓地を購入する契約を結んでしまったようです。
「まあいいじゃない。安いんだし、早いに越したことないでしょ。それでね、次は仏壇の購入を考えてるんだけど」
忠男さんの忠告を聞くどころか、和代さんは300万円の仏壇を購入するべく、忠男さんを説得しようとしています。
「いまのうちに準備すれば相続税対策になるんですって。ね、いいでしょう?」
和代さんは、すでに家族葬のプランまでいくつか検討しているとのこと。契約書を目にした忠男さんは、顔を真っ赤にしながら声を荒らげました。
「いったいなにを考えているんだ! 目ぇ覚ませ!」
矢継ぎ早に進められる契約の数々に、忠男さんは強い憤りを感じずにはいられませんでした。「家族を思っての行動」とはいえ、その思いが空回りし、和代さんは本来の目的から外れた方向へ進んでしまっていたのです。
近年増加傾向にある「終活詐欺」の恐ろしさ
近年、死後を見据えた財産の整理や相続対策などを指す「終活」という言葉が広く浸透してきました。しかし、その善意や不安につけ込んで巧みに金銭をだまし取る「終活詐欺」も増加傾向にあります。
代表的な手口としては、事例のようにセミナーでの高額な商品の勧誘や、葬儀費用を実際より高く請求するケース、墓石や仏壇などの高額商品の押し売り、不用品の訪問買取を装った不当な取引などです。
独立行政法人国民生活センターが公表した資料によると、訪問買取に関する相談件数は2020年以降も高止まりしています。
上記の相談はすべて終活詐欺に直結するわけではありませんが、「終活の一環で不用品を整理したい」と依頼した結果、トラブルに巻き込まれるケースも少なくないようです。
