あっという間の転落…自己破産に至るまで

本格的な老後を前に、ようやく「支出を抑えなければ」と考えた大川さん。2,000万円という資産はそれでも大金ですが、55歳という若さで退職したため年金見込み額も少なく、十分な老後資金とはいえません。

浪費の中心となっていたのは車関係の出費。車の仲間たちとの人間関係に悩んでいたことから、高級外車を手放して普通車に乗り換えることを決断しました。ところが、あまり一般向けとはいえない車。2,000万円で買ったにも関わらず、売却査定額はわずか500万円だったのです。

車の買い替えによる金銭的なプラスはほとんどなく、一方で生活レベルを下げ切ることもできません。毎月の出費は数十万円単位で続き、さらに水回りのリフォーム、子どもへの援助なども重なります。悪いことに、減りゆく残高を取り返そうと投資にも手を出し、失敗しました。

慌てて再就職をと思っても、60代で離職期間が長い大川さんに望むような仕事は見つかりません。仮に採用されても月給は20万円前後。現役時代の年収800万円と比べて大幅ダウンにもかかわらず、責任だけは問われます。それではとアルバイトに応募しても、贅沢暮らしに慣れた大川さんは「これだけ疲れて時給1,000円そこそこなんて」と続きませんでした。

結局、消費者金融からの借り入れを重ね、資産は完全に底をつき、利息の支払いも追いつかなくなり……ついには自己破産に至ったのです。

大きな収入や資産があっても家計管理は必須

大川さんのように、急に大きなお金を手にすると金銭感覚が狂ってしまう人は少なくありません。退職金、相続、宝くじに当たったなど、いずれも“棚ぼた”のように入ってきたお金は「減る」実感が乏しく、気づいたときには取り返しがつかなくなっていることがあります。

問題は、お金が多かったことではなく、使いすぎを予防する「仕組み」がなかったことです。いくら資産があっても、毎月いくらまで使えるのか、どのように資産を取り崩すのかを計画していなければ、長期的には破綻してしまいます。

長い目でみて毎月使える金額を決めておき、食費や光熱費、レジャー費などの予算を決めてその中で生活するように予算を立てて使える金額を決めておくことが大事です。そのうえで資産の一部を安定運用し、配当や利息で支出を補うことで2億円の資産を長期にわたって守ることも可能でした。

自分が望む生活水準と必要な支出額を把握し、可能な限り自分が望む生活ができる支出の計画を考えることが大事です。

見たことがない金額は人を狂わせる

「2億円あっても破産するのか……」と驚くかもしれませんが、実際には珍しい話ではなく、高収入で余裕がありそうな家庭でも貯蓄ゼロ、クレジットカードのリボ払いやキャッシングを多用しマイナスが続いているようなことはよくあることです。

生活水準や支出のクセは一度上げてしまうとなかなか戻すことが難しいこともあり、資産の大小にかかわらず、お金は“管理”しなければ守れません。特に、大きなお金をいきなり手にしたような場合には気分も高揚し、これまでに見たことが無い金額を突然手にしたことにより金銭感覚が狂い、使い過ぎてしまうものです。

だからこそ、前述したような家計管理は必須です。自分だけでどうしたらよいかわからない場合には、ファイナンシャルプランナーのような中立的なお金のプロに相談しながら、自分のライフプランと照らし合わせ、冷静に資産と支出の管理を行っていくとよいでしょう。

小川 洋平
FP相談ねっと