国税庁の「令和5年分 相続税の申告事績の概要」によると、課税対象となった相続のうち、相続税額は平均1,930万円でした。思いがけない多額の遺産は“嬉しい悲鳴”かと思いきや、実際には家族が相続税に苦悩するケースも少なくないようです。亡き父の“サプライズプレゼント”に頭を抱えた59歳男性の事例をもとに、相続時の注意点をみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。
相続税が払えません…年収800万円の59歳サラリーマン、享年88歳・倹約家の父が遺した「サプライズプレゼント」に悲鳴【CFPの助言】
そんな…アパートに関する衝撃の事実
そしてAさんは、存在を知らなかった3棟のアパートの詳細について、Cさんから衝撃の事実を告げられました。
「アパート3棟のうち、1棟は黒字ですが、ほか2棟は常に半数以上空室で赤字が続いています。この2棟は、相続したあと持ち続けるか売却するか考えなければなりません」
税理士からの結果報告
それから約2ヵ月が過ぎたころ、税理士のCさんから、相続税や相続登記などの当面必要な諸費用は、Bさんが遺した預貯金で足りるとの連絡がありました。
これで、Aさんの懸案のひとつだった相続税など負担の心配は解消されました。残る課題は、今後のアパート経営です。
アパート2棟が赤字の理由
Aさんは、それぞれのアパートについて今後の方針を決めるべく、3棟の管理を任せている管理会社のほか複数の不動産仲介業者に相談しました。
各社の話をまとめると、Bさんが建てたアパートは3棟いずれもワンルームで、1棟は近くに工業団地があり単身者の入居者も多いことから今後も黒字が見込める一方、現在赤字の2棟については、いずれもファミリー層が多く、ワンルームには向かない立地であることが判明しました。
Aさんが下した決断
父親の形見だし、簡単に「売却」という選択肢はとりたくない。でも、このままでは赤字を垂れ流す“負動産”になってしまう……。
悩みに悩んだAさんでしたが、ついに決断を下します。
現在赤字の2棟を更地にして売却し、売却益で実家を建て直して妻と引っ越すことにしたのでした。
Aさんは来年定年を迎えるため、再雇用は受けずに現在住んでいる賃貸マンションを引き払い、建て直した実家でセカンドライフを送ろうと考えたのです。
家族に迷惑をかけないために
今回紹介したAさんは、亡き父Bさんの遺産を有効に相続した事例です。
ただしBさんは、生前に不動産を整理しておくなど、対策を打つことはできたでしょう。
また、相続時精算課税の贈与額2,500万円までの特別控除を利用するなど、資産の一部を生前贈与することもできたはずです。生前贈与であれば、A夫婦やその子どもたち(Bさんの孫)が喜ぶ顔を直接見ることができたかもしれません。
もしかすると、倹約家だったBさんのことですから、Aさんに対して「自分のことは自分でなんとかしろ」と考え、あえて生前の対策をとらなかったのかもしれません。それはそれで正しい選択でしょう。
ただ一方で、親子でコミュニケーションをとりながらお互いの知恵を出し合って、Bさんが築きあげた大切な財産の価値を最大限保ったまま次代へ継承しても良かったのではないか……。Aさんからこの話を聞いて、思わずそう感じたのでした。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員