日本でお金持ちが多い場所と聞くと、東京や大阪、横浜や神戸など、大都市をイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、日本にはあまり知られていない“お金持ちの村・町”が数多く存在します。福島県会津地方の北部に位置する会津美里町(あいづみさとまち)もそのひとつです。では、この村の住民はなぜお金持ちなのか、経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が住民の声を交えて解説します。
“お金持ちの街”の秘密…人口の約4割が「65歳以上」でも平均給与額は「834万円」福島県・会津美里町住民の実態【経営のプロが取材】
会津美里町が直面する明確な課題
一方、課題も明らかだ。その筆頭が、気候変動リスクである。
猛暑や豪雨といった異常気象は収量を直撃し、2023年の不作のように全国的な被害をもたらす可能性がある。
また、外食需要やインバウンドの急増は需給調整を難しくする。米不足のなかでブランドは高評価を得たが、契約対応や在庫管理の負担は大きい。
さらに、高齢化の深刻さも無視できない。法人化で一定の対処はしているが、世代交代の遅れは持続可能性を脅かす。
加えて、設備投資や流通支援の一部が補助金に依存しており、政策変更に左右される脆弱性もある。
危機を力に変える“ブランド戦略の示唆”
会津美里町が示したのは、「危機こそブランドを証明する」という事実だ。
米不足という逆境のなかで安定供給を実現したことが、「美味しい米の産地」という評価を超え、「信頼できる産地」としての価値を高めた。
その背景には、JAや法人による一体的なリスク吸収構造がある。冷蔵・乾燥施設といった共同投資が、個別経営では不可能な強靭さを生んでいるのだ。
今後に向けては、加工品や体験型観光を含む6次化を拡大することで価格変動への耐性を高められる。米の輸出や農業体験は、新たな収益源として期待できる分野である。
この「危機に強い会津モデル」は、果物や野菜など他の農産物でも応用可能だ。安定供給体制を整え、危機下でも市場を守ることが、地域ブランドを確立する最重要ポイントとなる。
会津美里町は、一見すると人口減少と高齢化に悩む典型的な地方農村に見える。しかしその実態は、米不足という逆境を跳ね返す供給力、法人化による持続可能な農業経営、そしてジローラモさんの参入にみられるような“外部からの新風”を取り込みながら、「農業は稼げない」という通念を覆している稀有な存在だ。
ここにこそ、全国の地域経済が学ぶべき「米どころの底力」があるのではないだろうか。
鈴木 健二郎
株式会社テックコンシリエ 代表取締役
知財ビジネスプロデューサー