会津美里町が直面する明確な課題

一方、課題も明らかだ。その筆頭が、気候変動リスクである。

猛暑や豪雨といった異常気象は収量を直撃し、2023年の不作のように全国的な被害をもたらす可能性がある。

また、外食需要やインバウンドの急増は需給調整を難しくする。米不足のなかでブランドは高評価を得たが、契約対応や在庫管理の負担は大きい。

さらに、高齢化の深刻さも無視できない。法人化で一定の対処はしているが、世代交代の遅れは持続可能性を脅かす。

加えて、設備投資や流通支援の一部が補助金に依存しており、政策変更に左右される脆弱性もある。

危機を力に変える“ブランド戦略の示唆”

会津美里町が示したのは、「危機こそブランドを証明する」という事実だ。

米不足という逆境のなかで安定供給を実現したことが、「美味しい米の産地」という評価を超え、「信頼できる産地」としての価値を高めた。

その背景には、JAや法人による一体的なリスク吸収構造がある。冷蔵・乾燥施設といった共同投資が、個別経営では不可能な強靭さを生んでいるのだ。

今後に向けては、加工品や体験型観光を含む6次化を拡大することで価格変動への耐性を高められる。米の輸出や農業体験は、新たな収益源として期待できる分野である。

この「危機に強い会津モデル」は、果物や野菜など他の農産物でも応用可能だ。安定供給体制を整え、危機下でも市場を守ることが、地域ブランドを確立する最重要ポイントとなる。

会津美里町は、一見すると人口減少と高齢化に悩む典型的な地方農村に見える。しかしその実態は、米不足という逆境を跳ね返す供給力、法人化による持続可能な農業経営、そしてジローラモさんの参入にみられるような“外部からの新風”を取り込みながら、「農業は稼げない」という通念を覆している稀有な存在だ。

ここにこそ、全国の地域経済が学ぶべき「米どころの底力」があるのではないだろうか。

鈴木 健二郎
株式会社テックコンシリエ 代表取締役
知財ビジネスプロデューサー