住民の平均所得が高い理由

会津美里町が高い所得水準を実現している背景には、気候と土壌に恵まれた環境がある。

会津盆地特有の昼夜の寒暖差、清冽な水、そしてミネラルを含んだ肥沃な土壌が、コシヒカリやひとめぼれといった高品質の米を生み出してきた。

また、この土地で育まれる「会津米」は、全国的なブランドとして確固たる地位を確立している。

食味ランキングでは最高評価の「特A」を何度も獲得し、首都圏の消費者や飲食店からも指名買いされるほどの人気を誇る。

加えて、山間部ではオタネニンジンやソバ、ブドウ、アスパラなどの作物も栽培され、多角的な農業経営が行われている。

こうした多品目化によって、単一作物への依存リスクを避けつつ、地域全体で安定した収益基盤を築いているのが特徴だ。

さらに、法人化や集落営農の仕組みを取り入れることで、高齢化が進むなかでも効率的な農地活用が可能となり、農家一戸あたりの所得向上につながっている。

危機に強い“会津モデル”のビジネス構造

そして最大の特徴は、JAや農業法人が出荷・販路・価格交渉を一元化し、農家が生産に専念できる仕組みを築いていることだ。

この「地域経営」こそが収益の安定を支え、危機への耐性を高めてきた。

それが証明されたのが、2023年産の猛暑不作とコロナ後の需要回復が重なった2024年の全国的な米不足である。

多くの地域で混乱が生じるなか、会津美里町は冷蔵・乾燥施設への投資と計画的出荷によって、安定供給を維持した。

「在庫を冷蔵庫で管理し、契約先に合わせて出荷できたので混乱はありませんでした」と農業法人の担当者は語る。危機下でこそ、平時の投資が真価を発揮した。

加えて、首都圏飲食店との直接契約や、ふるさと納税による高級米展開がブランド力を高めた。需要逼迫時に「会津産指名買い」が相次いだことは、供給力とブランド力が一体化していることの証である。

また、人材確保の工夫もある。福祉施設や高校と連携し、季節労働を取り入れている。

「高校生が収穫を手伝ってくれると、ベテラン農家も元気になります。『若い力が加わると田んぼも明るくなる』ってよく言うんです」との農家の声が示すように、労働力補完と地域の活性化が同時に実現している。