日本でお金持ちが多い場所と聞くと、東京や大阪、横浜や神戸など、大都市をイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、日本にはあまり知られていない“お金持ちの村・町”が数多く存在します。福島県会津地方の北部に位置する会津美里町(あいづみさとまち)もそのひとつです。では、この村の住民はなぜお金持ちなのか、経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が住民の声を交えて解説します。
“お金持ちの街”の秘密…人口の約4割が「65歳以上」でも平均給与額は「834万円」福島県・会津美里町住民の実態【経営のプロが取材】
住民の平均所得が高い理由
会津美里町が高い所得水準を実現している背景には、気候と土壌に恵まれた環境がある。
会津盆地特有の昼夜の寒暖差、清冽な水、そしてミネラルを含んだ肥沃な土壌が、コシヒカリやひとめぼれといった高品質の米を生み出してきた。
また、この土地で育まれる「会津米」は、全国的なブランドとして確固たる地位を確立している。
食味ランキングでは最高評価の「特A」を何度も獲得し、首都圏の消費者や飲食店からも指名買いされるほどの人気を誇る。
加えて、山間部ではオタネニンジンやソバ、ブドウ、アスパラなどの作物も栽培され、多角的な農業経営が行われている。
こうした多品目化によって、単一作物への依存リスクを避けつつ、地域全体で安定した収益基盤を築いているのが特徴だ。
さらに、法人化や集落営農の仕組みを取り入れることで、高齢化が進むなかでも効率的な農地活用が可能となり、農家一戸あたりの所得向上につながっている。
危機に強い“会津モデル”のビジネス構造
そして最大の特徴は、JAや農業法人が出荷・販路・価格交渉を一元化し、農家が生産に専念できる仕組みを築いていることだ。
この「地域経営」こそが収益の安定を支え、危機への耐性を高めてきた。
それが証明されたのが、2023年産の猛暑不作とコロナ後の需要回復が重なった2024年の全国的な米不足である。
多くの地域で混乱が生じるなか、会津美里町は冷蔵・乾燥施設への投資と計画的出荷によって、安定供給を維持した。
「在庫を冷蔵庫で管理し、契約先に合わせて出荷できたので混乱はありませんでした」と農業法人の担当者は語る。危機下でこそ、平時の投資が真価を発揮した。
加えて、首都圏飲食店との直接契約や、ふるさと納税による高級米展開がブランド力を高めた。需要逼迫時に「会津産指名買い」が相次いだことは、供給力とブランド力が一体化していることの証である。
また、人材確保の工夫もある。福祉施設や高校と連携し、季節労働を取り入れている。
「高校生が収穫を手伝ってくれると、ベテラン農家も元気になります。『若い力が加わると田んぼも明るくなる』ってよく言うんです」との農家の声が示すように、労働力補完と地域の活性化が同時に実現している。