「遺族年金を請求しますか?」…職員の“唐突な質問”の真意

現行制度上、65歳時点ですでに遺族厚生年金の受給権があると、老齢基礎年金と老齢厚生年金ともに繰下げ受給をすることはできません。

Aさんように、65歳以降の差額分の遺族厚生年金が0円になっても、このまま65歳を迎えるとその受給権自体は残っている状態となり、繰下げができないということになります。しかし「年金制度改正法」によって、この繰下げ不可のルールも改正されます。2028年4月以降は、すでに遺族厚生年金の受給権者となっていても、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに繰下げ可能となるのです。

改正前(2028年3月以前)から遺族厚生年金の受給権者となっている場合でも、改正後(2028年4月以降)に65歳になる人(1963年4月2日以降生まれ)はその対象となり、Aさんもこれにあてはまります。

ただし、老齢厚生年金の繰下げについては、遺族厚生年金を請求していないこと、つまり遺族厚生年金を受け取るための手続きをしていないことが条件となります。

そのため、もしここで遺族厚生年金を請求すると、老齢厚生年金は繰下げできなくなり、繰下げ可能なのは老齢基礎年金のみとなってしまうのです。

Aさんが下した決断

「そんなルールがあったのか……」

驚きつつも、職員の質問の意図がわかり合点がいったAさん。とはいえ、5年間で20万円支給と少額ながら、本来であれば受け取る資格のある遺族厚生年金を受け取らない選択をするのは、正直割り切れない思いもあります。

悩ましいところでしたが、Aさんは引き続き働く予定です。まとまった貯蓄もあることから、65歳までの遺族厚生年金がなくても生活はできそうでした。

Aさんは熟考の末、苦渋の決断でしたが、遺族厚生年金は請求せずに将来老齢年金の繰下げ受給を行うことにしました。

2028年4月以降、男女間格差の解消など遺族厚生年金の大きな改正が行われ、あわせて遺族厚生年金の受給権者の老齢年金の繰下げについても改正されます。

年金の繰下げ受給を予定している場合、改正の内容も踏まえたうえで見込額の予測を立ててみるとよいでしょう。

五十嵐 義典
CFP
株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役