ただでさえ複雑な年金制度。そのなかの「遺族年金」について、新たなルールが設けられることはご存じでしょうか。年金繰下げ受給を検討している59歳男性の事例をもとに、今年6月に成立したばかりの「年金制度改正法」のうち、「遺族年金」と「老齢年金の繰下げ受給」の関係をみていきましょう。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPが解説します。
遺族年金、請求しますか?…年金事務所職員の“唐突な質問”に困惑する59歳男性。年金制度の「新ルール」を知って下した“苦渋の決断”【CFPの助言】
Aさんは現行制度で「遺族厚生年金」の対象に。しかし…
現在の制度では、夫を亡くした妻の場合、遺族厚生年金受給のための年齢要件がありません。一方、Aさんのように妻を亡くした夫には年齢要件があります。具体的には、妻の死亡当時夫の年齢が55歳以上であることが条件です。加えて、原則60歳になってからでないと支給されません。
しかし、Bさんが亡くなった当時、Aさんは59歳。55歳以上という年齢要件とその他の要件も満たしているため、Aさんは現行制度でも60歳になってから遺族厚生年金を受け取ることができます。
なお、先述のとおり、年金制度改正法によって2028年4月以降はこの男女間格差が段階的に解消されていき、妻を亡くした60歳未満の夫にも支給されるようになります。
Aさんの遺族厚生年金はBさんの厚生年金加入記録をもとに計算され、Aさんが60歳から受け取れるその額は年間4万円となりそうでした。
ただし、Aさんが65歳以降老齢年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金)を受給できるようになると、遺族厚生年金は「Aさん自身の老齢厚生年金」との差額のみが支給される仕組みです。
Aさんの老齢厚生年金は年間140万円と、遺族厚生年金より圧倒的に多いことから差額分は発生せず、65歳からは遺族厚生年金が支給されません。したがって、Aさんが遺族厚生年金を受給できる期間は、60歳から65歳になるまでの5年間となります。
しかし、意外にもAさんはポジティブです。
(たった5年間ではあるけれど、自分も遺族厚生年金が受け取れるのか。わずかでも支給されるなら、老後の暮らしが少しは楽になるな)
そう思っていたところ、年金事務所の職員がAさんに「意外な質問」を投げかけました。
「Aさん、こちらの遺族厚生年金ですが、請求を希望されますか?」
「え?……どういうことですか?」
たったいま遺族厚生年金の額が提示され、「請求すると受け取れる」と言われたばかりなのに。どうしてそんなことを聞いてくるんだ? Aさんは不思議に思いました。