日本でお金持ちが多い場所と聞くと、東京や大阪、横浜や神戸など、大都市をイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし、日本にはあまり知られていない“お金持ちの村・町”が数多く存在します。鹿児島県の奄美大島西部に位置する宇検村(うけんそん)もそのひとつです。では、この村の住民はなぜお金持ちなのか、経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が住民の声を交えて解説します。
役場職員「レクサスやクラウンはよく見ますね」…人口1,600人・平均年齢55歳「平均給与859万円」奄美大島・宇検村の秘密【日本に実在する“お金持ちの田舎”の実態】
恵まれた資源を「お金」に変えた方法
村が次に取り組んだのは、ブランド化だ。「宇検産クロマグロ」「宇検産クルマエビ」といった名称での品質訴求は、ふるさと納税返礼品を通じて全国に広まった。
若手養殖業者の一人はこう話す。
「東京の寿司店から直接『宇検のエビがほしい』って指名されるんです。ブランド化の力を実感しますね」
このブランド力は、単なる“高品質”にとどまらない。漁協が中心となり、大手商社との提携で首都圏や海外市場への販路を確立。従来の「地元市場依存」から脱却し、付加価値の最大化に成功した。
村全体で取り組む“垂直統合モデル”
宇検村の最大の強みは、養殖から販売までを村内で完結させる“垂直統合”だ。
「漁師が魚を育てるだけじゃない。漁協と一緒に、どうやって売るかまで考えるんです」
現場の漁師のこの言葉に、宇検村の強さが凝縮されている。
漁協は、稚魚や餌の共同購入だけでなく、価格交渉も一手に引き受ける。これによりスケールメリットが生まれ、個人経営では実現できない「交渉力」が地域全体に備わった。
さらに、地元の国立大学である鹿児島大学との共同研究により、餌の改良や成長スピードの最適化も進んでいる。
「昔は2年かかっていたマグロが、いまは1年半で出荷できる」と漁協幹部は胸を張る。
技術の高度化はコスト削減だけでなく、リスク管理の面でも大きな効果を発揮している。
高収入の裏にあるリスク
もちろん、成功の裏側にはリスクも潜んでいる。
第一に価格変動リスク。クロマグロは国際相場に左右されやすい。「円高になると、収益は一気に厳しくなる」と漁協幹部は語る。
第二に気候変動リスク。海水温の上昇は養殖環境に直結し、疾病リスクも増大する。村ではセンサーによる水温モニタリングや給餌管理の自動化を進めている。
第三に後継者不足。50代漁師はこう漏らす。
「息子は島に戻ってきたけれど、まだまだ若手は足りていないよ」
この課題に対し、村では研修制度や漁業体験を通じて、外部人材の呼び込みも模索している。