恵まれた資源を「お金」に変えた方法

村が次に取り組んだのは、ブランド化だ。「宇検産クロマグロ」「宇検産クルマエビ」といった名称での品質訴求は、ふるさと納税返礼品を通じて全国に広まった。

若手養殖業者の一人はこう話す。

「東京の寿司店から直接『宇検のエビがほしい』って指名されるんです。ブランド化の力を実感しますね」

このブランド力は、単なる“高品質”にとどまらない。漁協が中心となり、大手商社との提携で首都圏や海外市場への販路を確立。従来の「地元市場依存」から脱却し、付加価値の最大化に成功した。

村全体で取り組む“垂直統合モデル”

宇検村の最大の強みは、養殖から販売までを村内で完結させる“垂直統合”だ。

「漁師が魚を育てるだけじゃない。漁協と一緒に、どうやって売るかまで考えるんです」

現場の漁師のこの言葉に、宇検村の強さが凝縮されている。

漁協は、稚魚や餌の共同購入だけでなく、価格交渉も一手に引き受ける。これによりスケールメリットが生まれ、個人経営では実現できない「交渉力」が地域全体に備わった。

さらに、地元の国立大学である鹿児島大学との共同研究により、餌の改良や成長スピードの最適化も進んでいる。

「昔は2年かかっていたマグロが、いまは1年半で出荷できる」と漁協幹部は胸を張る。

技術の高度化はコスト削減だけでなく、リスク管理の面でも大きな効果を発揮している。

高収入の裏にあるリスク

もちろん、成功の裏側にはリスクも潜んでいる。

第一に価格変動リスク。クロマグロは国際相場に左右されやすい。「円高になると、収益は一気に厳しくなる」と漁協幹部は語る。

第二に気候変動リスク。海水温の上昇は養殖環境に直結し、疾病リスクも増大する。村ではセンサーによる水温モニタリングや給餌管理の自動化を進めている。

第三に後継者不足。50代漁師はこう漏らす。

「息子は島に戻ってきたけれど、まだまだ若手は足りていないよ」

この課題に対し、村では研修制度や漁業体験を通じて、外部人材の呼び込みも模索している。