長い会社員生活に終止符を打ち、迎えた定年退職の日。多くの人が、晴れやかな瞬間を迎えることでしょう。しかし、時間に縛られない“夢のセカンドライフ”が、実はそう長くは続かない現実をご存じでしょうか。楽しみだったはずの趣味に飽き、手元には膨大な時間だけが残る――。本記事では、ふくしまゆきお氏の著書『定年後を豊かにするシンプルライフ お金・モノに頼らない生活の実現へ』(ごきげんビジネス出版)より、定年後のリアルに迫ります。
60歳・定年退職日、花束を抱え「明日から自由だ」と喜んだ夫…しかし翌朝、リビングでの妻の一言で始まる“行き場のない地獄”
離れてわかる会社のありがたみ
退職すると会社のありがたみをいろいろと実感するものです。まず、行き場があります。そして、「ちゃんと稼いでいる」と誇れる毎日があります。家(とくにリビング)にいると妻が嫌がる場合が多いようです。
継続雇用で働く理由には、老後資金が必要なのではなく、妻からの質問「会社を辞めて何するの?」「毎日家にいるつもり?」に答えられなかったから、という私の元同僚も多くいます。「教育と教養」(きょう、行くところがある。きょう、用がある)で責められるのです。
また、名刺があるのがありがたいことです。「〇〇社の■■です」だけで、初対面のあいさつも知人への近況説明もすんでしまいます。会社を離れると「いまは何をしているんですか?」といった質問が刺さります。私はオンラインでの日本語教師をしていてよかったと実感しています。「昔の人々の楽しみ方研究家です」とはいいにくいのです。実際にいったこともありますが、「何をするの?」「収入はどうなの?」「会社勤めはしないの?」など次々と質問され、大変厄介でした。
会社は所属するだけで、私たちにアイデンティティーだけでなく、自己肯定感も与えてくれます。ですが、会社を離れる日は誰にでもきます。自分で会社を経営していない限り、やがてきてしまうのです。
退職すると「会社に代わる何か」が必要です。報酬がなくてもOK。ボランティア活動、家庭菜園での野菜づくり、楽器演奏、なんでもOKです。いくつあってもよいですが、はつらつと生きていくためには、アイデンティティーや自己肯定感を得られる何かがいるのです。
それだけではありません。会社を離れたあと、何を楽しみにして生きるのか。これはアイデンティティーよりも重要な問いかもしれません。そして、どこで、誰と、どのような暮らしをするのか、そのための資金はどうするか、など自分で決めなければならないのです。しかも、何をするか、できるかは、年齢とともに変わっていきます。時間軸もイメージしておかなければなりません。
ふくしま ゆきお
昔の楽しみ研究家
※本記事は『定年後を豊かにするシンプルライフ お金・モノに頼らない生活の実現へ』』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。