リタイア後の人生をどう生きるか。これはアメリカでも日本でも共通した課題です。本稿では、『How to Retire お金を使いきる、リタイア生活のすすめ』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集し、投資調査会社モーニングスターの資産管理およびリタイア計画担当ディレクターであるクリスティン・ベンツとスタンフォード大学のローラ・カーステンセン博士の対談から、そのヒントをご紹介します。
「仕事が生きがい」の男性→退職でアイデンティティ喪失の危機も…幸せなリタイア生活を送るための秘訣
リタイア生活を充実させる秘訣
クリスティン:ここまでのお話をうかがって、高齢になって親しい人の輪が狭まっても、あまり心配せずにそのときある人間関係を大事にしようと思いました。それから仕事以外に生きがいとなるような活動を見つけようとも思いました。何か新しいことに挑戦したいです。ほかにもリタイア生活を充実させる秘訣がありますか?
ローラ:健康を維持するために運動する人は多いですよね。もちろんそれはまちがっていません。でも運動は、実は心の健康にも役立つんですよ。うつ症状に対しては認知行動療法と同じくらい効果があるという研究結果があります。外へ出て散歩をする程度の運動が、私たちの精神にとてもいい効果をもたらすのです。
もう1つ、自然が心理状態に影響をおよぼすことも明らかになってきました。ほんの数週間前にニューヨーク・タイムズ紙にとてもいい記事が掲載されていたんですが、鳥のさえずりに6分間耳を澄ますだけで、不安や気分の落ち込みが顕著に回復するという内容でした。私も記事を読んだときは驚いたのですが、そのすぐあとで〝それはそうよね〟とも思ったんです。
公園へ行ったときなどに鳥の声が聞こえると、どこにいるんだろうとあたりを見まわしませんか? 私なんかはどの鳥がどの鳴き声を発しているのかをつきとめたくなります。そうやっているとだんだん心がおだやかになっていきます。落ち込んだとき、鳥の声を聞きにいく人はあまりいないかもしれないけれど、本来はそういうことをすべきなんですね。自然は大きな力を持っていますから。
クリスティン:これまで教えてくださったことがぜんぶそろえば最強ですね。たとえば友人と、自然の多い場所で運動するとか。いっぺんに複数のチェックボックスが埋まります。
ローラ:そうですね。私がいちばんお伝えしたいことは、良好な人間関係は何よりも人を幸せにするということです。周囲の人を大事にして、大切な人と疎遠にならないように折々気にかけましょう。月に一度、電話する程度でいいんです。半年に一度の電話でも、関係は続いていきます。
一生を通じてそうしたことに気をつけていれば、あなたが必要とするとき、必ず誰かがそばにいてくれます。逆に相手が困ったとき、あなたを頼ってくれます。誰かを必要とするのと同じくらい、誰かに必要とされることも大事です。他者から必要とされることは人として欠かせない資質なんですよ。
クリスティン・ベンツ
ディレクター、コラムニスト
岡本 由香子
翻訳者