定年後の生活に漠然とした不安を抱えていた富永さん(仮名・59歳)。そんな彼のもとに舞い込んだのは「月収45万円」という好条件の再雇用オファーでした。ただ、この老後の救いともいえる申し出が、思わぬ悲劇に……。富永さんの事例をもとに、年金をもらいながら働く際に起こりがちなリスクと、後悔しないための注意点をみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。
はい、よろこんで!…破格の「月収45万円」提示で再雇用に飛びついた59歳・定年直前サラリーマン、6年後に届いた「年金通知」を思わず二度見【FPが警告】
富永夫妻の「致命的な誤算」
その日から、富永さん夫妻の生活は少しずつ変わっていきます。気持ちのゆとりが行動に表れ、外食の回数が増え、妻の買い物も以前より豪華になっていきました。
「この収入なら65歳までは貯金を使わずに生活できそうだな」
「65歳以降は年金ももらえるから、年間100万円は老後資金に回せるわよ」
「月に5万円くらいは余るんだから、その分は旅行や趣味に使えるわね」
富永さん夫妻は、思いがけない再雇用のオファーに胸を躍らせ、将来への期待をふくらませていったのです。
6年後…富永夫妻を襲った「まさかの事態」
再雇用の打診を受けたその日から、富永さん夫妻の生活は明るさを増していました。外食やちょっとした贅沢も楽しめるようになり、以前より心に余裕を持てる日々が続いていました。
しかし、その穏やかな生活は、ある一通の通知によって崩れ去ります。65歳を迎え、初めて年金が支給されることになった富永さん。届いた年金通知書を見て、思わず目を疑いました。
年金3万円の支給停止。
「いったいなにが起きているんだ……」
肩の力が抜け、富永さんはその場に膝をつきました。
混乱したまま年金事務所に問い合わせたところ、意外な事実が判明します。富永さんのように、厚生年金に加入したまま65歳以降も働き続けている人は「在職老齢年金制度」の対象となるというのです。
この制度では、年金と給与の合計額が月51万円を超える場合、その超過分の2分の1が年金から減額される仕組みになっています。富永さんのケースでは、再雇用による月収45万円に対し、老齢厚生年金の月額は約12万円。合計で月57万円となり、基準の51万円を6万円上回っていました。
(基本月額12万円+総報酬月額相当額45万円-51万円)×1/2=3万円
つまり、厚生年金が月あたり3万円、年間で36万円も減額されることになるのです。
月3万円、年間で36万円の減額となると、これまで描いていた生活設計にも影響が出てきます。
年間100万円を老後資金として積み立てる目標は変えないものの「月5万円のゆとりある生活プラン」については、見直しが必要になりました。趣味やレジャー、ちょっとした贅沢に充てていた支出を調整しなければ、家計のバランスが崩れるおそれがあるためです。