定年後の生活に漠然とした不安を抱えていた富永さん(仮名・59歳)。そんな彼のもとに舞い込んだのは「月収45万円」という好条件の再雇用オファーでした。ただ、この老後の救いともいえる申し出が、思わぬ悲劇に……。富永さんの事例をもとに、年金をもらいながら働く際に起こりがちなリスクと、後悔しないための注意点をみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。
はい、よろこんで!…破格の「月収45万円」提示で再雇用に飛びついた59歳・定年直前サラリーマン、6年後に届いた「年金通知」を思わず二度見【FPが警告】
老後も頑張って働く→年金が減るという事実
年金が減額された現実を前に、富永さんは改めて自分の無知を痛感しました。そこで富永さんは、今後の生活プランについてファイナンシャルプランナー(FP)へ相談することに。
まずFPは「在職老齢年金制度」について丁寧に説明してくれました。制度の概要だけでなく、今後年金収入が加わることで所得税や住民税などの税負担が増える可能性があることにも言及します。
「働き方の見直しが、今後の生活に大きく関わってきます」と、FPは冷静にアドバイスを続けました。
たとえば、会社との雇用契約を業務委託契約に変更することや、労働時間や報酬額を調整して、在職老齢年金の支給停止ラインを超えないようにする工夫などが対策として考えられるとのことです。
ただ一方で、FPはこうも話します。
「在職老齢年金の調整は避けられないとしても、現在の働き方が総収入としてはもっとも高くなるケースが多いのも事実です。老後の資金形成を優先するのであれば、今のまま働き続ける選択肢も十分あり得ます」
富永さんは、年金制度や税負担のしくみを知ったことで、これからの働き方について深く考えさせられました。将来の生活設計を見直すよい機会になったようです。
富永さんのその後
年金の減額という現実に直面し、FPの助言を受けた富永さんは、妻と話し合った結果、現在の報酬額で引き続き働くことにします。
「今の仕事は嫌いじゃない。会社に必要とされているうちは、もう少し頑張ってみるのも悪くない」
そんな気持ちで、再び前を向いた富永さん。働けるうちはしっかり働き、その分、老後資金の準備を着実に進めていこうと心に誓いました。
同時に、今後は年金だけでなく税金の負担も増える見込みがあるため、家計の見直しや今後のライフプランについて、引き続きFPに相談していくことも決めました。現役時代とは異なるお金の流れに対応するためには、専門家の知恵を借りながら柔軟に対応していくことが重要だと感じたのです。
なお、令和8年(2026年)4月からは、在職老齢年金の支給停止調整額が現在の51万円から62万円に引き上げられる見通しです。この法改正により、将来的には今のような減額も緩和される可能性があります。老後も働き続けるつもりであれば、最新情報をチェックしておきましょう。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP