キャリアも健康も順調で、このまま退職まで安泰だと信じていた会社員の橋本さん(仮名・51歳)。しかし、病気による休職を余儀なくされたことで、順調な生活から一転、家計の危機に……。このような「まさか自分が」は誰にでも起こり得ます。十分な収入と貯蓄があっても本当に安心といえるのか、橋本さんの事例を元に「生きているけど働けなくなる」リスクと備えについて、CFP(ファイナンシャル・プランナー)の伊藤寛子氏が解説します。
どうしても起き上がれないんだ…年収1,500万円・貯蓄3,000万円で順風満帆の人生を歩む51歳部長、「このまま60歳まで走り抜ける」はずが、“まさかの事態”で大失速。迫り来る家計危機に苦悩【CFPの助言】
「働けなくなるリスク」に備える5つのポイント
橋本さんのケースを元に、「働けなくなるリスク」にどんな備え方があるのか、解説します。
1.公的制度を正しく理解する
健康保険に加入する会社員には、「傷病手当金」があります。病気やケガで働けなくなった際に、最長1年6ヵ月間、給与の約3分の2が支給される制度です。ただし、あくまで一時的な補償であり、長期的に生活を支えるものではありません。
2.民間保険で「収入減リスク」を補う
「働けなくなるリスク」に自助努力で備える方法として代表的なのが、「就業不能保険」です。病気やけがで所定の就業不能状態になったときの収入減を補うための保険で、一定期間毎月給付金が受け取れます。ただし、給付要件が比較的厳しい場合もあります。就業不能保険で備えることが本当に必要か、ニーズに合っているか、慎重に判断して検討しましょう。
3.住宅ローンは団信の内容を確認
住宅ローン契約時に加入する団信(団体信用生命保険)に、「就業不能特約」が付けられる場合もあります。
就業不能状態が一定期間続くと、住宅ローンの返済が免除される仕組みです。これから住宅ローンを組む方はもちろん、現在返済中の方も借り換えを検討する際に、金利だけでなく「万が一への保障内容」も比較・検討しておくべきです。
4.教育費・老後資金は「家計と分けて管理」
橋本さんのように「収入からその都度出せばいい」と考えていると、収入が減ったときや、止まってしまったときに対応できません。教育資金・老後資金は、目的別に管理・積立しておくことが大切です。特に、老後資金は「退職金が出るから大丈夫」という考えは危険です。iDeCoやNISAといった非課税制度も活用し、計画的に「長期分散投資」で備えることで資産形成にもつながります。
5.「働けなくなる」前提でもキャッシュフローを作ってみる
ライフプランはつい、「今の収入が将来も続く」前提で考えがちです。しかし、あえて「収入が3分の2になったら」「ゼロになったら」というシミュレーションをしてみることで、家計のリスクが見えてきます。どこにリスクがあり、どんな備えが必要かが明確になれば、対策を立てる意識も変わってきます。