キャリアも健康も順調で、このまま退職まで安泰だと信じていた会社員の橋本さん(仮名・51歳)。しかし、病気による休職を余儀なくされたことで、順調な生活から一転、家計の危機に……。このような「まさか自分が」は誰にでも起こり得ます。十分な収入と貯蓄があっても本当に安心といえるのか、橋本さんの事例を元に「生きているけど働けなくなる」リスクと備えについて、CFP(ファイナンシャル・プランナー)の伊藤寛子氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
どうしても起き上がれないんだ…年収1,500万円・貯蓄3,000万円で順風満帆の人生を歩む51歳部長、「このまま60歳まで走り抜ける」はずが、“まさかの事態”で大失速。迫り来る家計危機に苦悩【CFPの助言】
働けないのに、止まらない支出がさらなる心理的負担に
休職後、まもなく傷病手当金が支給され始めました。給与の約3分の2が支給されるこの制度は、公的な支援として大変ありがたい存在です。とはいえ、ボーナスはゼロになり、住宅ローンや教育費、日々の生活費など、すべてを賄うには十分ではなく、貯金を切り崩して対応せざるを得なくなりました。
「働けない、でも支払いは止まらない。それが一番きつかったです」……そう語る橋本さん。さらに、長男の大学受験が迫る中、「学費は大丈夫なのか」という家族からの無言のプレッシャーも重くのしかかったそうです。
回復の兆しが見えないまま時間が過ぎ、1年半後、傷病手当金の支給期限を迎えても職場復帰は叶わず、橋本さんは退職することになりました。退職後、再就職を目指しましたが、うつ病を経験した50代が正社員で再就職するのは現実的に難しく、応募した企業の面接すら通らない状況が続いていました。
――こうした想定外の事態に備えるのが、本来の「保険」の役割です。しかし、橋本さんが加入していたのは、死亡保障が中心の保険。「健康体でいるのが当たり前」という前提で、「働けないリスク」に備える保険の必要性を橋本さんは想定していませんでした。
また、高収入ゆえに教育費は家計からその都度出せるだろうと思っており、特別に貯めてはいませんでした。老後資金も「退職金と年金があれば大丈夫だろう」と、計画的に準備をしていませんでした。
「何とかなるだろう」と思っていた日常は、あっけなく崩れてしまったのです。