定年退職を迎えた石川さん(65歳)は、妻と共に長年の夢だったハワイ旅行を楽しみにしていました。年金月25万円、金融資産2,000万円で暮らすという堅実な老後設計だったはずが、「元本保証・年利7%」の甘い言葉に惹かれて不動産クラウドファンディングに手を出し、大金を失うことに……。小さな成功体験が招いた悲劇の真相とは? FPの三原由紀氏が解説します。
退職後は夫婦でハワイ旅行へ…堅実に生きてきた65歳男性、年金月25万円・退職金1,500万円で“慎ましくも幸せな老後”のはずが、「あと少しお金があれば」と望んだ結果、静かに潰えたささやかな夢【FPの助言】
詐欺に遭わないための3つのポイント
警視庁の発表によると、投資詐欺の被害額は年々増加傾向にあり、特に65歳以上の高齢者が被害者の約7割を占めています(※1)。SNS型投資の1件当たりの被害額は1,358.5万円、石川さんのようなケースは決して珍しいことではありません。
詐欺業者が使う典型的な手法は、まさに石川さんが経験したものでした。少額の利益を見せたうえで高額投資へ誘導する手口です。最初に小さな成功体験を与えることで、被害者の警戒心を解き、徐々に投資額を拡大させていくのです。
では、どうすれば詐欺を見抜けるのでしょうか。FPとして次の3つのポイントをお伝えします。
1.「元本保証」は制度上不可能
不動産クラウドファンディングやソーシャルレンディング、REITなど、いかなる投資商品も「元本保証」は法的に不可能です。それを謳った時点で違法または詐欺の可能性があります。
2. 業者の登録状況を確認
不動産クラウドファンディングは、「不動産特定共同事業法」に基づいて運営されるため、事業者は国や都道府県に「不動産特定共同事業者」として登録されている必要があります。
国土交通省のサイトで誰でも簡単に確認できますし、実際に事業者へ問い合わせてダブルチェックするのも有効です。
3. 高利回りには必ず相応のリスクがある
年利7%という高利回りには、それに見合うリスクが必ず存在します。「安全・少額・高利回り」の三拍子が揃うことは現実にはありません。
石川さん夫婦の夢だったハワイ旅行は叶いませんでしたが、いまは小さな町の温泉旅行でささやかな幸せを感じているといいます。妻も夫を責めることなく、週3日のパートを再開したそうです。
SNSやネット広告に出会ったときこそ、一呼吸おいて公式サイトで登録の有無を確認してみてください。それが、自分自身の大切な老後資金を守る第一歩になるはずです。石川さんの経験が、同世代の方々への警鐘となることを願ってやみません。
※ 警察庁「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版) 」
https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2024.pdf
三原 由紀
プレ定年専門FP®