「本当に儲かるんだ」少額の成功体験が判断を狂わせた

最初の10万円の投資から半年後、石川さんの口座に初回の分配金が振り込まれました。金額は額面で約3,500円。年2回支給で年利7%、計算通りでした。

「本当に儲かるんだ」

この小さな成功体験が、石川さんの判断を大きく狂わせることになりました。担当アドバイザーからは「石川様のような堅実な方にこそ、よりよい商品をご紹介したい」と持ちかけられ、次は50万円、その次は100万円と、投資額を徐々に増やしていきました。

サイトには実在の物件情報や詳細な事業計画書が掲載され、「上場企業のグループ会社が運営」という文言も安心材料に見えました。なにより、きちんと運用報告書が送られてきて、「順調に運用中」という報告が続いていたのです。

石川さんの投資額は最終的に1,000万円に達しました。退職金の3分の2に相当する金額です。「これで毎年70万円の分配金が入れば、旅行費用は十分確保できる」石川さんは皮算用に胸を躍らせていました。

ところが、高額を投じた開発型ファンドの予定日を過ぎても分配金は届かず、業者への連絡も取れなくなりました。不安になってインターネットで調べてみると、SNSでは同様の被害を訴える投稿が次々と見つかりました。

「クラファン業者怪しい」「架空ファンド」「登録されていない業者」といった検索結果が並び、石川さんは頭のなかが真っ白になりました。信じていた投資先は、正式な登録業者ではなく、不動産所有も登記もされていない完全な詐欺だったのです。

「妻にはまだいえない。40年近く真面目に働いてきたのに、なぜこんなことに……」

石川さんの声は震えていました。