定年退職を迎えた石川さん(65歳)は、妻と共に長年の夢だったハワイ旅行を楽しみにしていました。年金月25万円、金融資産2,000万円で暮らすという堅実な老後設計だったはずが、「元本保証・年利7%」の甘い言葉に惹かれて不動産クラウドファンディングに手を出し、大金を失うことに……。小さな成功体験が招いた悲劇の真相とは? FPの三原由紀氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
退職後は夫婦でハワイ旅行へ…堅実に生きてきた65歳男性、年金月25万円・退職金1,500万円で“慎ましくも幸せな老後”のはずが、「あと少しお金があれば」と望んだ結果、静かに潰えたささやかな夢【FPの助言】
「本当に儲かるんだ」少額の成功体験が判断を狂わせた
最初の10万円の投資から半年後、石川さんの口座に初回の分配金が振り込まれました。金額は額面で約3,500円。年2回支給で年利7%、計算通りでした。
「本当に儲かるんだ」
この小さな成功体験が、石川さんの判断を大きく狂わせることになりました。担当アドバイザーからは「石川様のような堅実な方にこそ、よりよい商品をご紹介したい」と持ちかけられ、次は50万円、その次は100万円と、投資額を徐々に増やしていきました。
サイトには実在の物件情報や詳細な事業計画書が掲載され、「上場企業のグループ会社が運営」という文言も安心材料に見えました。なにより、きちんと運用報告書が送られてきて、「順調に運用中」という報告が続いていたのです。
石川さんの投資額は最終的に1,000万円に達しました。退職金の3分の2に相当する金額です。「これで毎年70万円の分配金が入れば、旅行費用は十分確保できる」石川さんは皮算用に胸を躍らせていました。
ところが、高額を投じた開発型ファンドの予定日を過ぎても分配金は届かず、業者への連絡も取れなくなりました。不安になってインターネットで調べてみると、SNSでは同様の被害を訴える投稿が次々と見つかりました。
「クラファン業者怪しい」「架空ファンド」「登録されていない業者」といった検索結果が並び、石川さんは頭のなかが真っ白になりました。信じていた投資先は、正式な登録業者ではなく、不動産所有も登記もされていない完全な詐欺だったのです。
「妻にはまだいえない。40年近く真面目に働いてきたのに、なぜこんなことに……」
石川さんの声は震えていました。