ようやく子どもが独立し、自分たちの老後に目を向け始めた夫婦。その矢先にかかってきた一本の電話が、老後の人生設計を大きく狂わせることに——。今回は、教育費の支払いから解放されたはずなのに、思わぬ「借金」を抱え込むことになり、老後計画が崩れてしまったケースについて、CFP(ファイナンシャル・プランナー)の伊藤寛子氏が解説します。
なんてことだ…年収700万円・貯金300万円の58歳会社員、子ども2人が就職・ようやく老後の準備をできるはずが、長男からの〈1本の電話〉で事態急変。儚く散った老後の夢【CFPの助言】
教育費は借りられるが、老後資金を借りるのは困難
奨学金は「借りて進学できればそれでいい」というものではありません。特に注意したいのは、奨学金に対する「借金である」という認識の甘さです。
奨学金は「将来のための投資」「学びの支援」といったプラスの印象を持たれることもありますが、返済が必須の貸与型の場合はれっきとした借金です。とくに有利子の第二種では、返済額が貸与額を上回ります。
学生時代に借りるため、働き始めてからの負担を実感しにくく、いざ自分が返済するときになってから「こんなに返さなきゃいけないの?」「毎月数万円って、思ってたよりキツい」といった声も実際に耳にします。周囲も借りている人が多いと、「みんなと同じ」という安心感から、借入額や返済計画への意識が低くなりがちです。
親が手続きを主導することで、子ども自身が当事者意識を持ちにくい点も課題といえるでしょう。進学前に「誰が、いくら借りて、どう返すのか」を家族全体で話し合うことが、将来のこうしたリスクを防ぐうえで重要です。
教育は「親の責任」と感じる方も多いでしょう。しかし、自身の老後の暮らしは誰かに代わってもらえるものではありません。
老後資金は準備できる時間が限られており、あとから誰かに借りることも困難です。もし自分たちの生活が立ち行かなくなれば、子どもに迷惑をかけることにもなりかねません。たとえば、親が経済的に困窮し、将来介護が必要になった際に、結果として子どもに更なる負担をかけてしまう事態もあり得ます。
「一度始めた援助をやめにくい」という気持ちがあったとしても、親の経済状況を正直に伝え、今後の返済について改めて子どもと話し合いの機会を持つことが必要です。子どもの収入が安定したタイミングで、「本人による返済の再開」や「これまでに肩代わりした分の一部返済」など、現実的な計画を親子で約束し直すことが大切です。
感情だけで判断するのではなく、資金の優先順位をもとに冷静に家族で話し合うことが、家族全体の経済的な安心を守ることに繋がります。
伊藤 寛子
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)