ようやく子どもが独立し、自分たちの老後に目を向け始めた夫婦。その矢先にかかってきた一本の電話が、老後の人生設計を大きく狂わせることに——。今回は、教育費の支払いから解放されたはずなのに、思わぬ「借金」を抱え込むことになり、老後計画が崩れてしまったケースについて、CFP(ファイナンシャル・プランナー)の伊藤寛子氏が解説します。
なんてことだ…年収700万円・貯金300万円の58歳会社員、子ども2人が就職・ようやく老後の準備をできるはずが、長男からの〈1本の電話〉で事態急変。儚く散った老後の夢【CFPの助言】
親が返済を引き受ける前に、検討すべき救済制度の活用
松本さん夫妻のように、「子どもを見捨てることなんてできない」と感じる親御さんは少なくありません。しかし、老後資金の準備が差し迫っている親世代にとって、すぐに全額を肩代わりするのが最善とは限りません。
日本学生支援機構では、奨学金の返還が困難な場合に利用できる以下の救済制度が用意されています。
・減額返還制度
災害、傷病、経済的な理由などにより返還が難しい場合に、毎月の返還額を減らして返還を続ける制度。返済期間は延長されますが、第二種奨学金の利子の総支払額は変更ありません。一時的に負担を軽減し、生活を立て直す時間を確保することができます。
・返還期限猶予制度
災害、傷病、経済困難、失業などにより返還が難しい場合に、一定期間返還を先送りすることができる制度。あくまで「先送り」であるため、将来への負担を少しでも軽くするためには、「減額返還制度」の方が有効です。
・死亡または精神もしくは身体の障害による返還免除
本人が死亡または重度の障害などにより返還ができなくなった場合に、返還未済額の全部または一部の返還が免除される制度です。
また、2017年4月以降に第一種奨学金(無利子)を借りた人は、「所得連動返還型制度」も選択できます。これは前年の所得と扶養家族の数に基づいて返還額が決まるため、収入に見合った返済が可能になる制度です。収入額に変動があってから返還額も変動するのに時間がかかりますが、マイナンバーに基づいて算出されるため、書類手続きの負担が減るなどの利便性があります。
これらの制度は原則、奨学生本人からの申請が必要です。親が返済を引き受ける前に、こうした制度の活用の可能性を、まずは本人と一緒に確認することが大切です。