(※写真はイメージです/PIXTA)
孫の笑顔が「悪魔」に見えた日
しかし、次女親子との関係性は徐々に金銭的なものへと姿を変えていきます。最初は「新しい生活を始めるのにお金がかかって」という美咲さんの言葉に、健介さんは「これで色々整えなさい」と快く50万円を渡しました。それがすべての始まりでした。
「お父さん、パートのお給料だけじゃ厳しくて……でも、翔太にみじめな思いはさせたくないの」
そう言ってうつむく娘を前に、健介さんは「分かった」と頷くしかありません。金銭面でのサポートが始まりました。
厚生労働省『2021年度 全国ひとり親世帯等調査』によると、母子世帯の平均年間就労収入は236万円。児童手当などを含めても、余裕のある生活には程遠いというのが実情です。美咲さん親子も同じだったのでしょう。次第に「翔太が塾に行きたいって言い出して」「周りの子はみんな英語の学童に通っているの」と、要求はエスカレートしていきました。そして健介さんの口座から毎月、年金以上の金額が消えていくのが当たり前に。マンションを購入した時には、5,000万円以上あった貯金は、いつの間にか4,000万円前半まで減り、ふと、「どこまで減っていくんだろう」と焦りと不安を感じることも。
そんなある日、事件が起きました。いつものように翔太君を預かっていた時、何気なく美咲さんのSNSを開いてみると、そこには健介さんの知らない娘の姿があったのです。
「自分へのご褒美!」
「友達と箱根でリフレッシュ旅行!」
投稿には、高級ブランドのバッグを片手に微笑む美咲さんや、温泉旅館の豪華な食事を楽しむ写真が並んでいました。健介さんには「生活が苦しい」と訴えながら、裏ではこんな贅沢をしていたのかと、裏切られた気持ちでいっぱいになったのです。
その夜、帰宅した美咲さんを問い詰めると、「息抜きよ。私だって大変なんだから。ママ友の付き合い」とさらりと言ってのけます。開いた口が塞がりませんでした。その隣で、ゲームに夢中の翔太君が「じいじ、新しいゲームソフト買ってよ」と無邪気にねだってきます。つい数時間前まで、天使のように見えていた孫の笑顔が、その瞬間、自分の老後資金を食い潰す悪魔のように見えました。
さらに、偶然、美咲さんの元夫に会うことがあり、そこで毎月、しっかりと養育費を払っていることが判明。健介さんは「養育費は1円も受け取っていない」と聞いていました。そこで健介さんは決心します。
「来月から、一切のサポートは打ち切る。自分の給与と養育費でやりくりしなさい」
「ひどい、私たちがどうなってもいいのね。もう翔太にも会わせないから!」
泣き叫ぶ美咲さんに胸が張り裂けそうになりましたが、健介さんは心を鬼にしてその場を立ち去りました。あの日から、健介さんのもとに娘や孫が来ることはなくなりました。やっと手に入れたはずの穏やかな老後は、皮肉にも、愛する家族との断絶によってもたらされたのです。
「最初に甘やかしたのが間違いでした。今さらながら後悔しています」
[参考資料]
厚生労働省『2021年度 全国ひとり親世帯等調査』