人生100年時代と言われる昨今、定年後も長い老後に備えて働くことを選択する人が増えています。定年後に職が決まるまでの間「失業手当」は重要な収入源でしょう。ただ、この失業手当、受け取り方によって金額が大きく違ってくるというのです……。65歳の伊藤さんの事例をもとに「失業手当」と「高年齢求職者給付金」それぞれのしくみと注意点をみていきましょう。石川亜希子FPが解説します。
悔しい…年収800万円→400万円に減額も「恩返しだから」と会社に尽くした65歳元サラリーマン〈もらえたはずの75.2万円〉の存在を知り後悔【FPの助言】
伊藤さんが“本来もらえたかもしれない”金額
再雇用で賃金日額(退職前6ヵ月の賃金÷180)が約8,333円だった伊藤さん。高年齢求職者給付金を受給するための基本手当日額は約5,635円※ですから、受給額は約5,635円×50日=約28万1,750円です。
一方で、もし伊藤さんが65歳になる前に退職していた場合、通常の失業手当を受給するための基本手当日額は約5,012円※となり、受給額は約5,012円×150日=約75万1,800円。その差額は、なんと約47万円にものぼります。
※ 出典:厚生労働省「雇用保険の基本手当(失業給付)を受給される皆さまへ」
「おいおい、3倍も違うじゃないか……」
一番お得なタイミングは65歳を迎える“ギリギリ”だが…
たしかに、失業手当を最大限受け取りたいのであれば、65歳になる前に早めに退職するほうがよさそうです。しかし、いくつか注意すべきこともあります。
たとえば、65歳より前に退職して、同時に「特別支給の老齢厚生年金」を受給する場合や、年金の繰り上げ受給をする場合、失業手当を受給すると、老齢厚生年金の支給は停止されてしまいます。
また、いくら失業手当の受給額が多いといえど、働いて毎月給料をもらうほうが受け取る金額は多いでしょう。賞与や退職金にも影響がある可能性もありますので、なるべく長く働いていたほうがいいですよね。
したがって、給料と失業手当の“いいとこ取り”をしたいのであれば、65歳になる直前に退職して失業手当の手続きをするのが一番お得といえるでしょう。
ただし、ギリギリに退職したい場合は「年齢到達日」に注意が必要です。雇用保険法では、年齢到達日は誕生日の前日となっています。
たとえば、7月10日が誕生日の場合、雇用保険上は前日の7月9日が65歳に到達した日となるため、7月8日までに退職する必要があります。
定年は「長い老後」のスタート地点
「お世話になった会社への恩返しとして、定年まで働くのは当たり前」
そう考えて65歳まできちんと働いて退職した伊藤さん。しかし、わずかなタイミングの差で、同い年の仲間と受け取る金額が大きく異なってしまい、悔しさが拭い切れません。
退職のタイミングは、「人生の第2ステージ」のスタート地点です。豊かな「第2ステージ」を築くためにも、知らずにいると損をしてしまう制度がないか、一度確認してみてはいかがでしょうか。
石川 亜希子
AFP
