「遺族年金」について、なんとなくは知っているものの、実はその仕組みや平均受給額についてよく知らないという人は少なくありません。年金生活者にとって遺族年金は生活費の基盤となるにもかかわらず、「思ったよりも少ない」と驚くケースも多いようです。夫に先立たれた千絵子さん(仮名・65歳)の事例をもとに、「遺族年金」の“落とし穴”をみていきましょう。山﨑裕佳子FPが解説します。
遺族年金は「亡夫の年金の4分の3」じゃなかったの?…〈年金月19万円〉だった67歳女性、年金事務所で告げられた「まさかの遺族年金額」に絶句【FPの助言】
将来に絶望した千絵子さんの「その後」
実は結婚後、お金の管理は夫に一任していた千絵子さん。毎月夫から渡される生活費で家計を切り盛りしていたことから、想定していたより年金が少ないことに不安を拭い切れません。
「なんとか自分で解決しなければ」と決意したものの、なにから手をつけていいかわからず、困り果ててしまいました。
そこで、まずは友人に紹介してもらったファイナンシャルプランナー(FP)に家計運営のアドバイスを受けることにしたのでした。
遺族年金の平均額
総務省の家計調査(2024年)によると、65歳以上の単身無職世帯の平均収入額は12.1万円となっています。つまり、夫亡きあとの千絵子さんの年金収入11万円は“平均的”といえそうです。
一方、同調査によると、1人暮らしの毎月の支出額※は14万9,000円と、収支は赤字となっています。そのため、千絵子さんの支出も平均的であれば、預金の取り崩しも視野に入れる必要がありそうです。
※ 主な支出項目……食費、居住費、日用品、被服費、保険医療費、交通費、娯楽費、交際費、その他
とはいえ、お金の使い方は人それぞれ。
「まずは自身の生活スタイルを確立し、毎月の支出、年払いの支出を計算して年間の総支出額を把握してみましょう」とFPにアドバイスを受け、早速FPとともに試算を行った結果、毎月の生活費は年金収入内で収まりそうだとわかりました。
家の維持費、税金などは貯蓄から払うことになりそうですが、そこまで心配する必要はなさそうです。
長男の「まさかの申し出」に涙
FPに相談したことでお金の心配からは解放された千絵子さんですが、1人暮らしの寂しさは募るばかりです。そんなある日、夫の死から3ヵ月が経過したころ、葬儀後はじめて長男(41歳)が妻と孫を連れて実家にやってきました。
久しぶりににぎやかな夕食を共にしたあと、長男がさりげなく切り出しました。
長男「母さん、どう? 少し落ち着いた?」
千絵子さん「うん、だいぶね、1人暮らしの寂しさにもようやく慣れてきたわ……」
強がる千絵子さんですが、長男はそれを察していたようです。
長男「……母さん、一緒に住もうよ。今日はこれを伝えたくて来たんだ。うちの家族もみんな納得しているし、よかったら考えてみてよ」
息子の思わぬ申し出に、千絵子さんは思わず涙。
「困ったときはいつでも連絡してくれよ、家族なんだから」
息子という精神的な支えを得たことで少しずつ元気を取り戻した千絵子さんは、少しずつ家から出る機会も増え、最近ボランティア活動を始めたそうです。
「生活に張りが出て毎日が楽しいんです。まだまだ子どもに甘えるわけにはいかないから」
そう言って、笑顔を見せる千絵子さんでした。
元気なうちに「遺族年金」のシミュレーションを
遺族の生活の支えのひとつとなる遺族年金ですが、年金制度が複雑なこともあり、当事者になって初めて知る内容も多いかもしれません。
今回、千絵子さんは自身の年金が基礎年金のみであったため、夫の厚生年金の4分の3が支給されましたが、自身が厚生年金の受給権者の場合、遺族年金が減額されるケースもあります。「予想していた金額より少なく驚いた」という話は、決して他人事ではありません。
50歳以上であれば「ねんきん定期便」などで生存中のおおよその年金額を把握できますが、どちらかが亡くなった際に相手が受け取れる遺族年金の額までを把握している人は多くないでしょう。
配偶者が亡くなったことで生活に窮することのないように、遺族年金の金額をあらかじめシミュレーションしておくことも大切です。
なお、遺族厚生年金は女性の就業率アップにともない、男女差を解消する目的で2028年4月以降大きな変更がある予定です。最新の制度とあわせて注視していきましょう。
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
