長年添い遂げた夫を亡くし、明らかに元気を失った80代の母。その母を心配し、同居を検討する50代の子ども。ただ、この“親を想う優しさ”が思わぬ悲劇を生みだしたのでした……。親との同居を決心した小倉道人さん(仮名・55歳)の事例をもとに、親との同居で起こりがちなリスクと老後の資金計画の注意点をみていきましょう。辻本剛士CFPが解説します。
〈年金月11万円〉〈貯金50万円〉81歳女性、55歳息子の「一緒に住もう」に歓喜も…3ヵ月後、心優しい息子の「まさかの罵声」に絶句のワケ【CFPの助言】
堪忍袋の緒が切れた道人さんの“咆哮”
「しばらくすれば落ち着くだろう」と当初は楽観的にとらえていた夫婦でしたが、母親の「健康志向の買い物」はまったく収まる気配を見せません。
本来であれば、毎月5万円ずつ貯蓄に回して老後資金を積み立てていく予定でした。ところが実際には、生活費の増加によって思うように貯蓄ができず、むしろ家計は赤字気味に。将来への不安が日に日に募っていきます。
同居から3ヵ月ほど経ったある晩、道人さんは意を決して母親に切り出しました。
「母さん、いい加減にしてくれないか? ちょっとやりすぎだよ。買うなとはいわないけど、もう少し量を抑えてもらえないかな?」
すると、登美子さんは即座に反発。
「なあに、私は健康に気をつけてるだけよ! 病気になれっていうの!?」
「高齢者はタンパク質が不足しがちになるってお医者さまも言ってたもの。だから国産のいいお肉でタンパク質を摂取しなきゃ。無添加で安全で、体にいいものを食べなきゃ意味がないのよ! なに、あんた知らないの? この本貸そうか?」
その瞬間、道人さんのなかでなにかがぷつんと切れました。
「……いい加減にしろよ! 誰の金で食えていると思ってんだ!」
食卓は静まり返り、しばらく誰も言葉を発することができませんでした。
母の暴走の結果…家計は“悲惨”な状況に
登美子さんには毎月11万円の年金収入があるものの、収入を超える支出を続ければ小倉家全体の家計に影響が出るのは当然です。
特に今回は、母親の食費だけで月18万円にのぼっており、これは明らかに高すぎます。
総務省統計局が公表している「家計調査(2024年)」によれば、65歳以上の無職単身世帯における食費は約4万2,000円程度。夫婦2人の高齢者世帯であっても約7万6,000円が平均とされています。これをみると、18万円という数字がいかに逸脱しているかがわかるはずです。
息子の道人さんはまだ現役で働いていますが、あと10年もすれば自身も老後生活に入ることになります。多くの人がそうであるように、老後は年金収入に依存する比重が大きくなりがちです。
もし今後もこの生活が続いた場合、10年後には家計が破綻するリスクも否定できません。
