「残クレ」という言葉をご存じでしょうか? これは「残価設定型クレジット」の略で、自動車ローンの一種です。“残クレ・アルファード”なるミームが出回るなか、ネット上では「残クレは損をする」「デメリットしかない」といった否定的な声も少なくありません。しかし、はたして本当にそうなのでしょうか? 辻本剛士CFPが具体的な事例をもとに、「残クレ」のしくみと活用方法を紹介します。
残クレは使わないと損ですよ…「年金月25万円」「貯金3,000万円」の69歳男性が〈残価設定クレジット〉を利用する納得の理由【CFPが解説】
堅実な家計で年金暮らし…車の乗り換えを検討する松永さん
松永徹さん(仮名・69歳)は、妻と2人暮らしです。数年前に長年勤めた会社を定年退職し、現在は月に25万円の年金で無理のない生活を送っています。これまでの堅実な家計管理のかいあって、貯蓄は退職金と合わせて約3,000万円貯まりました。
もともと几帳面な性格の松永さん。自宅の部屋は常に整頓されていて、床に物が置かれていることはまずありません。洗濯物もきちんと畳んで押し入れにしまい、タオルの端が揃っていないと落ち着かないほどです。
車の運転においても、その几帳面さは健在です。発進はゆっくり、ブレーキも早めに踏む。交差点では必ず一時停止を守り、安全運転を徹底しています。常に周囲に気を配りながらハンドルを握るその姿勢のおかげで、これまで交通事故はもちろん、すり傷をつくったことすらありません。
そんな松永さんはいま、5年間愛用してきた車を手放し、新しいものに乗り換えようと考えています。
「次はどんな車にしようか」
その思いを胸に、ワクワクした気持ちでパンフレットを見比べる松永さんです。
老後資金はとっておきたい…ニーズが合致し、今回も“残クレ”を選択
週末、松永さんは妻とともに近所のディーラーを訪れました。
「そろそろ新しい車に買い替えようかと思っていましてね」
松永さんがそう伝えると、担当販売員もにっこりと頷きました。実は、この店舗には何度か足を運んでおり、いま乗っている車もこのディーラーで購入したもの。このとき初めて残クレを利用しました。
手元には3,000万円というしっかりとした貯蓄があるものの、これは老後の生活資金として「できるだけ取り崩したくない」という思いがあります。加えて、将来的に免許を返納することになった際、車の処分を考えるのも手間です。
「あと数年だけ、新車に安心して乗れたらそれでいいんです」
松永さんのニーズは、まさに残クレと相性がよいものでした。
今回松永さんが選んだ新車の本体価格は300万円です。残クレを利用した場合、5年後の残価は150万円と設定され、ローンの金利は3.9%。毎月の返済額は約3万3,000円におさまります。
通常のカーローンで購入した場合、月々の返済額はおよそ5万5,000円になるため、月に2万円以上も支出を抑えることができる計算です。
「年を重ねると、あと何年車に乗れるかわかりませんからね。だったら、負担を減らして気軽に乗り換えられる方法を選びたいんです」と松永さんは語ります。
さらに「僕の性格上、車はいつもピカピカに洗うし、安全運転が基本です。走行距離もそこまで多くないので、追加の費用が発生するリスクはほとんどないと思っています」と、自信をのぞかせました。
「高齢者には向かないって声も聞きますけどね、むしろ高齢者こそ残クレを使わないと損ですよ」
松永さんの言葉には、これまで丁寧に暮らしてきたからこその説得力がありました。