“健康自慢”の65歳夫婦が「老人ホーム」を選んだワケ

浦野マサユキさん(仮名・65歳)と妻ユミコさん(仮名・65歳)は現役時代、ともに公立中学校の教師を務めていました。夫マサユキさんは体育科、ユミコさんは音楽科の教員で、60歳の定年まで職務をまっとうしました。

2人には長男、長女、次男と子どもが3人いますが、それぞれ結婚や就職で家を離れており、東京郊外の一戸建てには夫婦2人で住んでいます。

65歳を迎えてからは老齢年金の受給が始まり、年金額は夫婦で月額40万円ほど(額面)。なお、住宅ローンは完済しており、他に負債はありません。

2人とも体力には自信があり、マサユキさんは週3回のジョギングが日課です。ユミコさんも、趣味のテニスとヨガに精を出す毎日。夫婦で年に2回は温泉地に旅行に行くなど、悠々自適な生活を満喫しています。

そんなある日のこと。夕食後、2人揃って見ていたテレビで「高級老人ホーム」を特集していました。

健康自慢の2人にとって、老人ホームは縁のないものでしたが、映し出される高級老人ホームのまるでホテルのような豪華さに、一気に魅了されてしまいました。

番組によると、都内に点在する高級老人ホームはホテル顔負けの設備が充実しているようです。広い居室に高級感のある内装、敷地内に緑や水辺まで備えています。万が一のときの医療・介護体制も整っており、交通アクセスもよく、外出にも便利なようでした。

「わあ、すごいわねえ」

「こんなところで毎日過ごせたら、最高の老後だろうな」

夫婦が住む築35年の一戸建ては老朽化が進んでいました。きしむ床や階段にヒヤヒヤしながら、リフォームか建て替えかという話をしていた折、高級老人ホームは余計に魅力的に映ったそうです。

「まずは資料を集めてみよう」

特集が終わり顔を見合わせた2人は意見が一致。早速、近隣の高級老人ホームについて調査を開始しました。

すると、長男一家が暮らす隣の市に、よさそうな施設を発見しました。長男の家から2駅の場所にあり、築半年と新しい施設です。

「これは運命かも」とすっかりその気になった夫婦は、長男にも相談し、一緒に施設見学へ。期待どおり、施設はきれいで、居室も広く、設備も豪華です。施設職員のホスピタリティも高く、担当者からは「当施設は、一流ホテル並みの食事が自慢です。駅へのアクセスもよく、元気で自立している人ほど向いています」と言われ、ますます気持ちが高ぶります。