思わず口からこぼれた「いつまでいるんだろう…」

義父は日中、そのほとんどをリビングで過ごします。穏やかな表情でテレビを見ている姿は一見平和ですが、俊夫さんにはその空間が徐々に「自分の居場所ではない」と感じられるようになっていきました。

食事や休憩、妻との談笑を行っていたリビングに、義父がずっといるというのは、俊夫さんにとっては「プライバシーの欠如」と感じられるものです。また、高齢の義父はテレビの音量が大きく、耳障りに感じることもしばしば。

さらに、夜型の俊夫さんに対し、義父は早寝早起きが習慣づいているため、俊夫さんがようやく寝ついたころ義父が起き出し、大音量でテレビをつけます。

(いつまでいるんだろう……)

俊夫さんは寝室で舌打ちしながら思わずそうつぶやきました。

しかし、妻の陽子さんに遠回しに伝えても「わかるけど、もうお父さんもいい歳でしょ。大切にしてあげたいの」と主張し、義父との同居を見直す気配はありません。

義父には年金もあり、同居によって家計が圧迫されることはないものの、中田さんが求めていた「定年後の静かな時間」や「自分だけの空間」は、少しずつ遠のいていきました。

「定年後もずっといるってことだよな……俺の居場所って、どこにあるんだろう」

俊夫さんが抱える不安とストレスは、徐々に限界値へ近づいていきました。

高齢世帯の4組に1組が「親と同居」

俊夫さんの悩みは、プライバシーが確保できない点にあります。

現状のままではリビングが義父の居場所となり、自宅にいても落ち着くことができません。ストレスが積み重なり、精神面への影響も気になるところです。

高齢夫婦とその親の同居に関する日本の現状

60代の夫婦が高齢の親と同居しているケースは、珍しいものではありません。少し古いデータになりますが、国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、65歳以上の高齢夫婦のうち、親と同居している割合は23.4%となっています。つまり、高齢夫婦の約4組に1組が、さらに年上の親と同居しているということです。

出典:国立社会保障・人口問題研究所「2019 年社会保障・人口問題基本調査 第8回世帯動態調査」をもとに筆者作成
[図表]65歳以上の高齢夫婦のうち、親と同居している割合 出典:国立社会保障・人口問題研究所「2019年社会保障・人口問題基本調査 第8回世帯動態調査」をもとに筆者作成

「人生100年時代」といわれる現代、今後もこうしたケースが増加する可能性があります。そのため、将来を見据えたライフプランには「親との同居」を想定しておくことが重要です。