厚生労働省の調査によると、同居期間20年以上の「熟年離婚」の割合は2022年時点で約23.5%と、1947年に統計を開始して以降過去最高となっています。熟年離婚を切り出すのは「妻から」のほうが多いようで、30年妻と連れ添ったAさん(60歳)も、定年退職したその日に「離婚届」を突きつけられ衝撃を受けます。今回は、牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが事例をもとに、熟年離婚の理由と離婚後の資金繰りについて解説します。
まってくれ…貯金4,000万円の60歳サラリーマン、定年退職日に花束を抱えて帰宅→妻から「離婚届」を渡され悲鳴。3年後に「離婚してよかった!」と笑う“まさかの理由”【CFPの助言】
妻から突きつけられた驚きの“条件”
「専業主婦として支えてくれた妻がいなくなったらどうやって生きていけばいいんだ……。というか、家は? お金は? 財産はどうなる?」
今後の生活が急激に不安になったAさんは、知り合いのファイナンシャルプランナー(FP)へ相談することに。
財産分与の仕組み
Aさんから相談を受けた筆者は、まず「財産分与」の仕組みを説明しました。
財産分与において対象となる財産は、婚姻期間中に2人で築いた共有財産です。分割割合は、原則2分の1ずつですが、夫婦で話し合って決めることもできます。
夫婦は現在、都内にあるマンションに暮らしており、住宅ローンはすでに完済。Aさんによると、すでにBさんは今後の住まいについて、ひとり娘のCさん(28歳)と話をつけているようです。どうやら、現在住んでいるマンションを出て、都内でひとり暮らしをしているCさん(28歳)の賃貸マンションに同居するといいます。
財産分与について、当初Bさんは「自宅マンションはいらない。だけど、退職金を含めて4,000万円の貯蓄を全額ちょうだい」と主張。
しかし、不動産業者の査定で、自宅の売却価格が約2,780万円だったのを踏まえ、最終的にAさんは自宅マンションと貯蓄570万円を、Bさんは残りの貯蓄3,430万円と自家用車を取得することで合意しているといいます。
なお、65歳から受給がスタートする老齢厚生年金の受給見込額は、婚姻期間中のAさんの厚生年金記録を分割して、Aさんは月16万円、Bさんは月12万円です(現在57歳のBさんが60歳まで国民年金保険料を月1万7,510円※ずつ納付したときの見込額)。
※ 令和7年度の金額。
自宅は賃貸に出して再雇用で働く…Aさんの“老後計画”
Aさんいわく「毎月の生活費は20万円あれば十分」とのこと。
また、自宅がファミリー向けの間取りであることと、立地が駅から徒歩圏内の文教地区※にあることから、住まいは賃貸に出すことを考えているそうです。不動産仲介業者によると、賃貸に出した場合の家賃相場は19万円ほど。その後、自身は家賃8万円のワンルームマンションを借りるつもりだといいます。
※ 文教地区……学校・図書館などの文教施設が多く集まっている地区。都市計画法に定められ、文教上好ましくない施設や工場建設は規制される(デジタル大辞泉より)。
ただ、この計画を実行するにはリフォーム代や家財の整理費用が必要です。すぐに借り手が見つかったとしても、年金受給開始までの5年間は一時的に家計が困窮します。そのため、これを補う収入源が必要です。
するとAさんは、次のように言いました。
「退職するときに、系列の会社から再雇用の誘いを受けたんです。再雇用を受けるか迷っていたのですが、決心がつきました。再雇用で働けばなんとかなるかもしれませんね」
突然の離婚話に憔悴した様子のAさんでしたが、離婚しても金銭的には問題が少ないと知り、安堵された様子で帰っていきました。