親への感謝の気持ちとして、「仕送り」をしている人もいるでしょう。仕送りの負担は、若いころならそこまで大きく感じないかもしれません。しかし、役職定年を迎えたり子どもの教育費がかかったりするようになれば、無視できないものになっていきます。そこで今回は、年金と息子からの仕送りで暮らす岩本勝男さん(77歳・仮名)の事例とともに、仕送りをやめるタイミングと、親子の健全な「支え合い」の形について、南真理FPが解説します。
この先どうやって生きていけば…年金月10万円・元工場勤務の77歳独居男性、頼りにしていた息子から「仕送り終了」の宣告。これまでの送金に心から感謝するも、静かに忍び寄る「破綻の足音」【FPの助言】
仕送りがなくなっても、親子の絆は変わらない
長年、息子の義彦さんから仕送りを受けてきた勝男さんですが、「もう仕送りが難しい」と告げられたとき、寂しさや不安がなかったわけではありません。
しかし、それ以上に心にあったのは、感謝の気持ちでした。若くして妻を亡くし、苦労をかけた息子が、長年にわたり支えてくれただけで十分だと感じています。親の生活を子どもが支えることは、義務ではありません。仕送りをやめる決断は、親不孝ではなく、むしろ自分たちの生活を守ることが結果的に親孝行に繋がる選択でもあるのです。
ただし、現状、勝男さんが年金だけで生活することは極めて厳しいという課題は残ったままです。そのため、まずは居住している自治体の福祉事務所に相談し、生活保護の申請を検討することが現実的な第一歩です。
年金だけで生活が立ち行かない状況であれば、住居費や医療費の補助を含めた支援を受けられる可能性があります。生活保護の申請を行うと、福祉事務所による訪問調査、資産調査などが行われます。そのうえで、申請から原則14日以内に、保護を受けられるかの判断がなされることになります。
こうした公的支援の可否をまず判断した上で、それでもなお家族からの支援が必要だと判断される場合に、改めて義彦さんに支援をお願いするという流れにすれば、子ども側としても納得しやすくなるのではないでしょうか。
老後の生活は、本来「年金+貯蓄」でまかなうことが基本です。もしこれが難しい場合には、生活保護や医療・介護の公的支援制度を積極的に活用すべきです。そして、このような公的支援の手続きを経たうえで、それでもなお家族からの支援が必要となる場合に限って支援を依頼するという流れにすることで、家族同士の納得感も大きく違ってきます。
単に「助けてほしい」と伝えるよりも、「できることはすべて試したうえで、それでも足りない」という説明があることで、支援する側も心理的負担が軽減され、前向きな関係を保ちやすくなるのです。
また、親子それぞれが家計の状況を共有し、どのような支援が可能か率直に話し合うことが、親子関係をよりよくしていくカギとなります。親も子どもも、無理をせずに安心できる関係を築くことが、“支え合いの形”なのかもしれません。
南 真理
ファイナンシャル・プランナー