親への感謝の気持ちとして、「仕送り」をしている人もいるでしょう。仕送りの負担は、若いころならそこまで大きく感じないかもしれません。しかし、役職定年を迎えたり子どもの教育費がかかったりするようになれば、無視できないものになっていきます。そこで今回は、年金と息子からの仕送りで暮らす岩本勝男さん(77歳・仮名)の事例とともに、仕送りをやめるタイミングと、親子の健全な「支え合い」の形について、南真理FPが解説します。
この先どうやって生きていけば…年金月10万円・元工場勤務の77歳独居男性、頼りにしていた息子から「仕送り終了」の宣告。これまでの送金に心から感謝するも、静かに忍び寄る「破綻の足音」【FPの助言】
無理なく支え合うための3つの視点
親への仕送りを「これまで育ててもらった恩返し」や「家族としての責任」と捉えている人もいるかもしれません。しかし一方で、自分たちの生活や将来の資金計画を圧迫するほどの仕送りは、親にとっても子どもにとっても、本望ではないかもしれません。
では、親への仕送りについてどのように考えればいいのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの視点から、無理なく支え合うための3つの視点を紹介します。
① 親子それぞれのライフプランを「見える化」する
仕送りを続けるのかどうか判断する前に、まず大切なのは、親子それぞれの家計の現状と将来の見通しを把握することです。子世帯であれば、収入や教育費、住宅ローン、老後資金の準備など。親世帯であれば、年金収入、医療費、住居費、介護費用など今後どれくらいの支出が見込まれるのかを具体的に整理しておくことが重要です。
親が自分自身のライフプランを作ることで、「どこに不安があるのか」「何に備える必要があるのか」が明確になります。これにより、必要以上に子どもに頼らずに済む部分と、本当にサポートが必要な部分を切り分けることができるようになります。
仕送りは確かに親孝行のひとつかもしれませんが、子世帯の家計が赤字になるようであれば本末転倒です。無理をして仕送りを続けてしまうことで、将来の自分たちの生活設計に支障をきたす恐れもあります。まずは親子それぞれが自分の生活を守ることを前提に、必要な支援のあり方を冷静に見極めることが、結果的に長く安心して支え合う関係づくりにつながります。
② 制度や支援サービスを活用して「足りない部分を補う」
仕送りが難しい場合、子どもがすべてを支える必要はありません。親世帯が利用できる公的制度や地域の支援サービスを活用することで、生活の安定につながる可能性もあります。
生活保護は、資産や能力等すべてを活用しても生活が困窮する人に対し、その程度に応じ、必要な保護を行い、最低限の生活を保障し、その自立を助長する制度です。生活保護の申請は国民の権利であり、生活費や住居費、医療費などで日々の暮らしが立ち行かない場合は、お住まいの自治体の福祉窓口で相談してみることもひとつの選択肢です。
また、医療や介護にかかる費用の負担を軽減する制度も存在します。たとえば、1ヵ月の病院などでの窓口負担額が、一定額を超えた場合に、超過分が公的医療保険から支給される高額療養費制度や、所得などに応じて自己負担割合が軽減される介護保険サービスなどがあります。これにより、必要な介護サービスを1割~3割負担で受けることができます。
そのほかにも、見守りサービスや生活支援、家賃補助など自治体独自の福祉サービスが整備されていることもありますので、まずは最寄りの自治体に相談してみるといいでしょう。「支える=お金を出す」だけではありません。できる範囲で情報を調べ、相談窓口を訪ねることで、制度の活用という選択肢を広げることができます。
③ 金銭以外の支援の形を取り入れる
経済的な支援が難しい場合でも、支援の気持ちを形にする方法は他にもあります。たとえば、定期的な電話や訪問、買い物や病院への付き添い、健康状態を気にかけることなど、心の安心につながる支援が大切です。
お金だけが親孝行ではありません。親子でコミュニケーションをとりながら、お互い無理のない形で関われる方法を探ることが大切です。