「何の不安もない老後を送れると思っていたのに……」。長年専業主婦として家庭を支えてきた有子さん(仮名・58歳)は、ある日突然、夫から「離婚したい」と切り出され、老後の見通しが一変しました。熟年離婚は精神的ダメージだけでなく、経済的にも大きな打撃をもたらします。「財産分与」や「年金分割」だけで本当に暮らしていけるのか?再就職は現実的なのか?「もしも」が現実になったときに直面するお金と生活の課題について、CFPの伊藤寛子氏が解説します。
そんな、冗談でしょ?…年金見込み額月7万円・専業主婦歴30年の58歳妻、“何の不安もない人生”が突然終焉。長年連れ添ってきた夫に突き付けられた「まさかの一言」【CFPの助言】
「財産分与」と「年金分割」だけでは老後を暮らしていけない現実
有子さんは、財産分与によって約1,500万円、年金分割により月7万円の年金を受け取れる見込みです。有子さんは結婚退職をしてからは無職で夫の扶養に入っていたため、自身の年金見込み額は約7万円です。合計しても月14万円前後と、生活費や住居費、医療費などを考えると、安心して暮らせる額とは思えませんでした。
離婚後も住み慣れた家に住み続けられるとは限りません。自宅のローンは完済していますが、夫の実家の近くにある家に住み続けるのは気まずく、有子さんは家を出ることにしました。
しかし、60歳前後・無職の女性が単身で借りられる物件は限られています。契約には保証人を求められたり、敷金礼金・引越し費用など、初期費用も大きな負担になったりします。当然、家賃を払いながらの生活には、財産分与と年金分割により受け取る資金だけでは足りず、何らかの「労働収入」が必要不可欠となりました。
有子さんは長年のブランクから再就職を目指しました。まずハローワークへ相談に行きましたが、年齢による求人の選別、体力やスキル、職歴の不足などから「やっぱり難しい」と感じることが多く、現実は甘くありません。当初希望した事務系の仕事は見つからず、紹介されるのは清掃やレジといったパート求人ばかりでした。
「最初はプライドもあって、なかなか現実を受け入れられなかったんです。でも生活のことを考えたら選べる立場じゃないし、できる仕事をやるしかないと思って」そう話す有子さんは、近所のスーパーでパート勤務を始めました。
いざ働き始めると、新しいことを覚えたり、慣れたり、体力的な面での厳しさがやはりありますが、生活費と老後資金のために月約10万円の収入を得ることを目標として働いています。