(※画像はイメージです/PIXTA)

「仕事と育児の両立は無理なのでは」と感じることはありませんか。産休明けから25年間、糖尿病専門医として働き続けながら3人の子どもを育てた大西由希子氏。忙しい日々のなか、キャリアと家庭のバランスに悩みながらもいくつかの「ポイント」を押さえることで乗り切ってきたといいます。仕事と家庭に奔走してきた大西氏が、実体験をもとにママドクターのキャリア形成のヒントを紹介します。

産休明けから25年…私の働き方

私は長男の産休明けから25年間、朝日生命成人病研究所に勤務しています。

 

就職活動はせず、大学院時代に所属していた研究室からの紹介で就職しました。当時は、まさかこれほど長く同じ職場で勤め続けるとは思っていませんでしたが、糖尿病という慢性疾患を専門にするなかで、経年的に患者さんを診られるのは幸運でした。糖尿病という疾患を学ぶうえでも、また人生経験においても患者さんから教えていただくことは多いです。

 

育児と仕事の両立について、多くの人の支えのもとになんとかここまでやってこられました。長男は社会人、長女は大学生、次男は高校生です。

 

3人の子どもを育てながら働く私は普段、下記のような1日を過ごしています。

 

〈平日のスケジュール〉

5時半:起床。子どもたちと自分のお弁当を作る・洗濯・筋トレ・ピラティス

7時:出勤(子どもたちは私の出勤後に登校)

8時~19時頃:仕事(外来・治験業務・臨床研究・管理業務など)

19時半頃:帰宅して夕飯作り、家族と夕飯、入浴、息抜きにYouTubeなど

22時~0時前後:就寝

【ヒント1】夫婦でキャリアを支え合うために大切なこと

結婚・家事の分担

結婚はタイミングとご縁で、思い悩むことなく決めました。仕事のスタイルは何も変えなくてもいいよ、と寛大な夫です。しかし結婚当初は「家事も仕事もちゃんとしなければ」と思っていました。

 

しかしある日、「あれ、なんで私ばかりが家事に責任を感じなきゃいけなかったんだっけ? 夫も私も仕事しているのだから、夫にも家事をやってもらおう」と、唐突に気づいたのです。

 

こうして夫の家事トレーニングが始まりました。まずは保育園の送りから、掃除に洗濯、お料理も……いまではどんな家事でもできるようになりました。お互いに助け合えるので余裕もうまれ、家族は仲良し。子どもを含めて、家族は生涯の最強サポーターです。

【ヒント2】出産前後のキャリアと仕事の調整法

妊娠

結婚や妊娠は成り行きに任せていたこともあり、結婚後そんなに間をおかず妊娠しました。つわりが重く「仕事も家事も最低限」というひどい状態に。それは追い込まれたときに何を優先すべきなのか、自分は何を優先させたいのか、を自分で選択する練習でした。

 

一方、妊婦として「受診者サイド」を経験できたことで、キャリアに活きる気づきがたくさんあったと感じています。

 

保育園・学童クラブ時代

医学は病気のことをたくさん学んだけれど、子どもの成長・発達についてあまり深くは学んでこなかったということに気づかされました。保育園の先生は育児のプロ。育児の知恵をたくさん教えてもらい感謝しています。

 

また、職種が違ってもワーキングマザー同士には強い連帯感があります。保育園・学童クラブのイベントをパパ友ママ友たちと一緒に企画したのは素敵な思い出です。

 

ただ、出産のあとキャリアはしばらく“低空飛行”でした。男性医師たちの輝かしい活躍を応援しつつ、あんな風に仕事に邁進することはもう二度とないだろうな……と、少し寂しい気持ちになりました。

 

この時期は与えられた業務に一生懸命取り組みながら、とにかく真剣に患者さんに向き合っていました

【ヒント3】仕事の転機と新たな挑戦への向き合い方

そこに思いがけず降ってきたのが、治験部長の仕事です。

 

なぜ、私がこれをやらなきゃいけないの?

 

当時の私の正直な感想です。しかし、仕事には「自分がやりたいこと」だけでなく「やるべきこともあります。やりたいことでなくても、とにかく真剣に取り組んでみることにしました。すると、その仕事の意外な面白さに気づきはじめます。

 

新しい薬がどのように開発され、マーケティングを経て世の中に出ていくのか、そのプロセスを知ることは私にとって新鮮な経験。スタッフにも恵まれ、学びの多い時間でした。

 

仕事は必ずしも希望することばかりではありません。しかし、与えられた業務にも積極的に取り組むことで、新たな視点や可能性が広がることを実感しました。

 

また、新たな業務で仕事がオーバーフローしそうなとき、自分のエネルギー源となったのが子どもたちの笑顔と家族との時間です。それに、ママドクター仲間や職場のスタッフがいつもあたたかく応援してくれたため、なんとか乗り切ることができました。

【ヒント4】子どもたちの思春期・受験期を乗り越えて

子どもの思春期(中高時代)

毎朝の弁当作り、何年経っても私は苦手です(笑)。

 

「もう! 明日お弁当作ってあげないよ!」と言ったら「ママの価値は弁当を作ることしかないの?」と言われて、びっくり。天使のようにかわいかった子にこんなひどいことを言われる日が来るとは思いませんでした。

 

年齢を重ねると周りに注意や指導をされることが減ります。だからこそ、遠慮なく直球を投げてくる子どもたちの言葉にハッとさせられることもありました。

 

子どもの思春期を通して私自身も打たれ強くなり、忍耐力も鍛えられたように感じます。そんな子どもたちも今は私の良き理解者であり、楽しい話し相手です。

 

大学受験、そして大学生に

この時期の親にできることは、毎日お弁当を作って授業料・受験料を用意するだけです。進路も勉強スタイルも子どもによってそれぞれまったく異なります。ハラハラどきどきするけれど、子どもたちの可能性を信じるしかありません。

 

管理職になると、若い医師やスタッフの様子を見ているときまったく同じ気持ちになることがあります。失敗しても「これは成長過程、きっといつかこの若者達も成長して頼もしいスタッフになってくれるに違いない、頑張って!」と応援する気持ちになります。

子育ての経験はキャリアを豊かにしてくれた!

まだまだ私自身も成長過程ですが、子育て経験は自分の人生のみならず、自分のキャリアをも豊かにしてくれていると実感しています。

 

これまでの人生で経験してきたことが、診療中の患者さんとのコミュニケーションで役立ちました。だからこそ、年を取るほどに診療を面白いと感じるようになってきています。

 

これからキャリアを磨きながら結婚、子育てを経験するみなさまのことがとっても羨ましいです。仕事とプライベートはつながっています。男女問わず、どちらかに偏るのではなく、どちらもポジティブに向き合って大事にしてくださいね。応援しています!

 

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著者:大西 由希子

朝日生命成人病研究所 診療部長/糖尿病内科部長/治験部長

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