「今は稼ぎがいいから大丈夫」が老後に爆発「ハウスリッチ・キャッシュプア」の実態

平田さんのケースは特殊な例ではありません。日本の高齢者の多くが「ハウスリッチ・キャッシュプア」、つまり資産価値のある家を所有しながらも現金が不足する状態に陥りつつあります。

内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によれば、65歳以上の高齢者の持ち家率は84.5%と非常に高く、多くの高齢者が「マイホーム」を手に入れた世代であることがわかります。

しかし、家を持っていることが必ずしも経済的安定を意味するわけではありません。金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和5年)」によれば、70歳代で貯蓄額が500万円以下の世帯が41.4%にも上ります。

平均貯蓄額は1,757万円ですが、この数字は一部の高額貯蓄者に引き上げられたもので、実際には半数近くの世帯が老後の備えとして十分とはいえない貯蓄額しか持っていないのです。

持ち家率は高いが…なぜ多くの高齢者が“現金不足”に陥るのか

特にバブル期に働き盛りだった世代は、「収入は右肩上がり」「不動産価値は下がらない」という楽観的な前提で人生設計をしてきました。高級住宅地に家を買い、退職金の多くを住宅ローンの返済に充てた結果、現金の蓄えが少ないまま老後を迎えている人が少なくありません。

総務省の「家計調査報告(家計収支編)2024年」によれば、65歳以上の単身無職世帯の平均支出は月額約16.2万円(生活費+税・社会保険料)です。毎月の支出は地域差や個人差も大きく、平田さんは22万円という恵まれた年金収入があるものの、それだけではまかないきれない現実があります。

さらに、固定資産税という大きな負担があるため、生活費を平均レベルまで抑えたとしても赤字は免れないでしょう。

バブル期に共働きで高収入を得ていた夫婦によくある問題として、「家計管理を学ぶ機会がなかった」という点があります。「稼ぎがいいから大丈夫」という思い込みから、お金の管理や節約の習慣が身につかないのです。「パートナーが貯金しているのではないかと思っていた」というケースも珍しくありません。

また、共働きの高収入世帯では、一度上げてしまった生活水準を下げることに苦労するのもよくあるパターンです。定年後は年金の範囲で生活しようと思っても、生活スタイルを変えられないのです。

さらに深刻なのは、世帯主の死後に年金収入が減る一方で、減らない生活コストがあるという構造的問題です。大きな家に一人で住み続ければ、光熱費や修繕費、固定資産税などの負担は二人で暮らしていたときとさほど変わりません。

このような状態から抜け出すには、住まいの選択を含めた家計の見直しが必要です。