「研修医」の1日のスケジュールは?
――山田さんは、2年間の臨床研修(初期研修医)を終えた「専攻医」(※)として小児科で勤務されているそうですね。まずは医学部を卒業して医師国家試験に合格してからの流れについて教えてください。
山田医師:医学部を卒業して医師国家試験に合格すると、まず2年間は「初期研修医」として内科・外科・救急など複数の診療科をローテーションで回りながら、基本的な診療能力を身に付けます。その後、3年目からは「専攻医」として小児科などの専門分野で研修を積み、将来的には「専門医」を目指します。「専攻医」は、2018年に制度が変わる前は「後期研修医」と呼ばれていました。
※「専攻医」は、医学部卒業後に医師国家試験に合格し、2年間の初期研修を終えた医師が、特定の診療科で専門的な研修を行う段階のこと。一方、「専門医」は、専攻医としての研修と所定の試験・審査を経て、その分野の専門的な知識と技能を認定された医師に与えられる資格。
――1日のスケジュールを教えてください。
山田医師:初期研修の頃は、基本的に朝9時前には病院に到着していました。朝はカンファレンスがないことが多く、まずは患者さんの診察から始まります。その後は治療や検査に付き添い、手術に入ることもありました。お昼には休憩を取る時間もあります。午後は、検査があればそのまま同行し、特に予定がなければ研修医室で休憩を取ったり、学会発表の準備をしたりして過ごしていました。夜は、患者さんの状況を見に行って、特に変化がなければそのまま1日が終わります。夜勤の日は、救急対応が多く、救急車や自力で病院に来る患者さんの対応をします。
――専攻医の今と初期研修医時代との違いはありますか?
山田医師:私は小児科を選び、チーム医療の体制で働いています。朝と夕方にはカンファレンスがあり、新規入院や共有が必要な患者さんについて話し合います。その後はチームで回診し、担当患者の診察、検査、処置などを分担して行います。
お昼休憩はしっかり取れます。午後も検査や新規入院の対応、カルテ記載、点滴・採血などを行い、合間に勉強や資料作成、事務作業もこなします。夕方に再度回診を行い、1日の終わりに当日入院の患者さんについて全体でカンファレンスを行います。
そのまま帰宅することもあれば、残っている業務を済ませてから帰ることもあります。早ければ17時過ぎには帰れますし、遅くても18時か19時には帰ります。夜勤の日はそのまま病棟や救急の夜間対応に入ります。
「医師の働き方改革」で何が変わった? 現場で感じる変化
――「研修医」の働き方というと「長時間労働で辛い」というイメージもありますが、先輩からそんな話を聞いたことはありますか?
山田医師:今の研修スタイルは、上の世代の先生方から見ると「緩い」と感じられることもあるようです。昔は土日も毎朝病院に来ていたという話も聞きます。それが当たり前の時代だったんだろうなと。もちろん学ぶことは多かったと思いますが、今のように限られた時間で集中して働くスタイルも悪くないという声もあります。
病院側も、働き方改革の影響で、対応に追われている印象があります。残業時間には「A水準」「B水準」といった基準があり、それに沿って勤務時間が制限されるようになっています(※)。その分、医師側も過重労働にならないよう配慮されていると思いますが、一方で人員の確保が難しくなっている面もあります。看護師さんも不足している現場が多く、医療職全体の課題かもしれません。
※詳しくは厚生労働省のホームページなどをご参照ください。
――ご自身は今の働き方についてどんなふうに感じていますか?
山田医師:自分としてはもう少し仕事しても大丈夫かなとは思いますけど、 家でゆっくりする時間も必要だと思うので、今の制度は今の制度で良いのではないかと思います。
――やはり病院の近所にお住まいなのでしょうか?
山田医師:初期研修のときは寮生活でした。アパートを借り上げる形で部屋は別々ですが、同期とは仲が良くて、よく一緒に過ごしていました。
――20年くらい前のドラマを見ていると、ポケベルや携帯電話で夜中でも呼び出されるなどのシーンがありますが……。
山田医師:今は急な呼び出しというのはないですね。
――医学部時代にイメージしていた医師の働き方とのギャップがあれば教えてください。
山田医師:医学部の学生時代はもっと忙しいと思っていましたが、実際には働き方が多様だと感じました。育休を取る医師も多いです。
――小児科を選んだ経緯は?
山田医師:かなり悩みましたが、子どもが少なくなっている今、小児医療が病院によっては軽視されたり、そもそも診療科自体がなかったりすることもあります。そうした現状を目の当たりにする中で、「子どもたちをもっと大切にしたい」という気持ちが強くなり、小児科を専門に選びました。
――今後の展望についてもお聞きしたいです。
山田医師:まずは小児科専門医の資格を取ることが目標です。その後、さらに小児科内でどの分野に進むかを決めたいと考えています。また、地域貢献も意識しており、地元で役立つ仕事ができたらいいなという気持ちもあります。
浪人時代の頑張りが今につながっている
――そもそも医学部に進んで医師になろうと思った理由を教えてください。
山田医師:中学時代から漠然と医師になりたいと思っていました。私は地方の出身で、医師が少なかったため、地域貢献を考えて医学部を選びました。
実は、現役時代に医学部を受けたときはすべて落ちてしまい、その後、入学してから1年間は勉強に集中しました。甘く考えていた部分もあったと思いますが、その経験が今につながっています。
――具体的にどんな経験が今につながっているのでしょうか?
山田医師:浪人時代の勉強は本当に頑張ったと思います。その努力が今の勉強にもつながっていると感じています。浪人時よりも、国家試験のほうが気持ち的には楽でした(笑)。
――(医系専門予備校の)「メディカルラボ」に通っていたのは浪人時代からですか?
山田医師:現役時代から通っていました。実は、いろいろな予備校に通っていたのですが、メディカルラボなら頑張れそうだと思い、親にも相談して、浪人することが決まりました。私立の受験が早めに始まるので、1月からのスタートでした。その後、(国公立の)後期の受験もありましたが、結局受験はしないで、3月くらいから本格的に勉強を始めました。
――メディカルラボなら頑張れると思ったのはどんなところですか?
山田医師:土曜日まで普通に授業があり、学校のような感じだったので生活がルーティン化して、メリハリがしっかりとついていたのは良かったです。
また、自分は数学が苦手でしたが、英語は得意だったので、英語の授業を減らしてもらい、その分数学や物理を増やしてもらったことが良かったと思います。苦手な部分を強化できたのが大きなポイントです。また、強制的に勉強できる環境が整っていたことも良かったですね。自分で勉強を決めて進めていたので、そこも重要な要素でした。自分でスケジュールを立て、授業外の時間に何を勉強するかを考え、苦手な部分を重点的に勉強しました。
先生や事務の方々と話すことも多く、メンタル面でも助けられた部分が大きかったです。
――最後に医学部を目指す学生へのアドバイスをお願いしたいです。
山田医師:今の自分の立ち位置をちゃんと知るというのは大事かなと思いました。模試を受けて、自分の足りない部分を見つけることが重要です。そして早い段階で目標を決めて、早くから勉強を始めることが大事だと思います。
――自分の立ち位置だったり、成績だったり、現実を知るのは怖いという気持ちに負けそうになったことはなかったのでしょうか?
山田医師:できていないことを「悪い」と思う必要はないのかなと思っていて、できていなければ「できていないな」と思ってちゃんとやるのが大事なのかなと思っています。浪人のときもそうでしたが、今もその気持ちですね。