圭子さんが突き止めた健太さんの正体

突然リビングを出て自室に入る圭子さんを不思議に思い、真希さんが追いかけてきました。

「急にどうしたの? 大丈夫?」

「真希。あの人はやめておきなさい」

「なんで? せっかく運命の人と出会えたのに喜んでくれないの?」

相手のことが好きでたまらない真希さんは、聞く耳を持ってくれません。

悩んだ圭子さんは、健太さんの素性をたしかめるために探偵を雇うことに。すると1週間後、予想外の結果が送られてきました。なんと、健太さんは本当に「個人投資家」だったのです。

(まさか! 疑ってしまって恥ずかしい。健太さんにも真希にも申し訳ないことをしたわ。でも……どうしても引っかかる……)

不安が拭えない圭子さんは、信頼できる友人に相談することにしました。すると、友人は話を聞いたうえで、きっぱりと忠告しました。

「詐欺師じゃなくてよかったわね。でも、初対面で感じた”違和感“もウソじゃないと思う。相手の資産状況が分からないからなんとも言えないけど、いつ一文無しになるかわからないわよ。とにかく絶対にお金は贈与しちゃだめ。親子間での貸し借りも禁止よ。万が一のとき、あとで取り返しがつかなくなるから」

その言葉に、圭子さんは冷静さを取り戻しました。

後日、再び2人が圭子さん宅を訪れると、「親として伝えるべきことは伝えなければならない」と圭子さんは覚悟を決めました。娘と健太さんをしっかりと見つめて、圭子さんは言いました。

「結婚の話、うやむやにしてごめんなさいね。健太さん、どうか、娘をよろしくお願いします」

母の言葉に思わず涙を流す真希さん。しかし、圭子さんは「でも」と続けます。

「でも、よく聞いて。お父さんがのこした遺産は、お母さんの大事な老後資金。心苦しいけれど、どんなことがあっても援助はできないからね。いい?」

圭子さんの真剣な言葉に、真希さんは驚きながらも、静かにうなずきました。

「うん、わかった。結婚しても、お母さんの資産には絶対に手を出さない。私たちは私たちで生きていく」

娘の反応に、少しだけ肩の荷がおりた圭子さん。しかし、婚約者・鈴木さんの将来性に、どうしても頼りなさを感じてしまいます。圭子さんの胸には、なおも拭いきれない一抹の不安が残っていました。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表