事故は「加害者」と「被害者」どちらの人生も奪う

もし、これがさらに重大な事故で、相手が死亡したり後遺症が生じたりするようなケースであれば、数千万円単位の損害賠償責任を負う可能性もあります。

実際に、2013年に神戸地方裁判所で出された判決では、自転車事故で歩行者に重度の障害が残り、加害者の親が約9,500万円の賠償を命じられました(神戸地裁平成25年7月4日判決)。

このように、自転車事故は思いがけず高額な賠償責任につながる可能性があります。9,500万円ともなれば、Mさんの老後資金でも到底払いきれません。

そんなリスクに備えるのが「個人賠償責任保険」です。これは日常生活で発生した他人への賠償責任を補償する保険で、今回のような自転車事故のほかにも、下記のように相手自身や相手の所有物に損害を与え、賠償責任を負った場合に補償を受けることができます。

・買い物中に商品を壊してしまった

・ペットが他人にケガを負わせた

・子どもがボールを投げて他人の車を傷つけた

保険金額は1億円以上のものも多く、月あたり数百円程度の負担で加入できることが特徴です。

Mさんは、小学生にケガをさせてしまったこと、妻の忠告を聞かなかったこと、損害賠償を負うことへの経済的負担に、罪悪感と後悔に苛まれる日々が続きました。

賠償額が確定し、加入中の自動車保険に付帯されている「個人賠償責任特約」から賠償額が支払われることが決まったときには、心の底からホッとしたそうです。

自転車事故は誰にでも起こりうる

今回紹介したMさんのように、身近な人物から忠告を受けていても「自分は大丈夫」と思っている人は多いでしょう。しかし、普段どれだけ気をつけていても、不注意や相手の動きによって事故が起こる可能性はゼロではありません。

最近では、自転車事故による高額な損害賠償請求事例が増えていることを背景に、東京都や大阪府、兵庫県などで自転車保険の加入を義務化する自治体が増えています。

自治体によっては、未加入で事故を起こした場合に厳しい責任を問われることもあるため、居住地の条例やルールをチェックしておくようにしましょう。

また、老後の資金計画を考えるうえでも、こうしたリスクに備えることは重要です。退職金が事故の賠償で消えてしまうと、その後の生活設計に影響をおよぼすことになります。自分の生活を守るためのリスク対策という観点からも、個人賠償責任保険は加入を検討する価値があるでしょう。

なお、個人賠償責任保険は単独で加入するだけでなく、火災保険や自動車保険、傷害保険に特約として付帯することができます。すでに加入している保険に付加することも可能です。

大きな事故を起こして「まさか自分が」と絶望する前に、いまいちど保険内容を見直してみてはいかがでしょうか。

Mさんの「その後」は…

その後、しばらく外に出ることも控えていたMさんですが、最近では散歩に出かけるようになったそうです。

「事故を経験して、自転車の便利さ以上にルールを知ること、守ることの大切さを知りました。しばらく口をきいてくれなかった妻とも、最近は散歩に出かけるようになりました。

2人の小学生は無事にケガが治り、元気に学校に行っているようです。ただ、子どもたちにケガを負わせてしまったという後悔は一生消えません。反省の念を忘れずに、同じ過ちを繰り返さないよう生きていきます」

Mさんはまっすぐ前を向いてこう言いました。

大竹 麻佐子
ゆめプランニング 代表
ファイナンシャルプランナー(CFP🄬)
相続診断士