長女の口から告げられた「驚きの事実」

有効な自筆証書遺言が複数発見された場合、通常は最新の日付のものが優先されます。これは、違う形式の遺言書(自筆証書遺言や公正証書遺言など)が複数見つかった場合でも同様です。

そのため、通例では2通目に書かれた遺言書が有効になります。

正さんの遺産を整理したところ、現預金は約1億円あることが判明。そのため、2通目の内容に従うと「賃貸マンションは兄2人が相続し、現金1億円は恵美さんが相続する」ということになります。

しかしここで、修二さんが“待った”をかけました。

修二「ちょっと待って。2通目の遺言書が書かれたころって、父さんはすでに認知症だったよな?」

たしかに、2通目が書かれたとされる日付は、正さんが認知症を発症した後のものです。

浩一「おい恵美、お前まさか……」

2人が問いただすと、恵美さんは観念したように告白しました。

恵美「……ごめんなさい。老後資金が心配で、現金が欲しかったの……」

どうやら、晩年正さんと同居していた恵美さんは、判断能力が低下した父に2通目の遺言書を書かせていたようです。1通目の遺言書は恵美さんとの同居前に作成されたものであったため、恵美さんはその存在を知らなかったということでした。

遺言書を“偽装”させたにもかかわらず、恵美さんはなおも「でも私、不動産はいらないから現金が欲しい。全部じゃなくても構わないから……」と身勝手な主張。兄2人はそんな恵美さんを「人として最低だ」「お前に父さんの遺産を受け取る資格はない」と罵倒します。

すると、豹変した子どもたちの姿をみた母・保子さんが口を開きました。

――あなたたち、いいかげんにしなさい! お父さんがみていますよ!

言い合いがピタッと止まり、居間はシーンとした空気に包まれます。

保子「恵美、あなたは家族の仲を引き裂くとんでもないことをしたのよ。自分の卑しさを恥じなさい。それに浩一も修二も、血のつながった妹になんてこと言うの。お父さんは、間違いなくあなたたち3人を平等に愛していました。だから遺産は平等に分けなさい。きっとお父さんはそう望んでいるはずだから」

涙ながらにそう語る母の姿をみて、恵美さんは自らの行動を反省。話し合いの結果、1通目の遺言書内容を尊重する形で、収益用マンションは恵美さんと修二さんが一部屋ずつ相続。現預金は3等分することで合意し、遺産分割協議を終えました。

「円満相続」のためのファーストステップ

相続は、親が亡くなったらどんな人にとっても突然“自分ごと”になります。その際、故人が生前対策を怠っていると、遺された家族が深刻な相続トラブルに発展しかねません。

円満相続のためには、元気なうちに有効な遺言書を準備する、生前贈与を活用するなど、ときには専門家の助言を受けながら相続対策をしておくことが大切でしょう。

山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表