相続トラブルの多くは、故人が生前対策を怠ったことで発生します。ただ、たとえば「遺言書」さえあればすべて上手くいくのかというと、どうやらそうでもないようです。今回紹介する高橋家は、亡き父の遺言書が「2通」見つかりました。そしてこの2通の遺言書をめぐり、驚きの事実が明かされるのでした。相続で揉めないための「遺言書」のポイントについて、山﨑裕佳子FPが解説します。
あなたたち、お父さんがみていますよ!…亡き父の「現金1億円」は誰のもの?遺産分割協議で“豹変”した愛するわが子に80歳母が涙。原因は父の書斎で見つかった“2通の遺言書”【FPの助言】
2通の遺言書に記載されていた内容
〈1通目の遺言書〉
「預金と収益用マンションは子どもたち3人に譲る。家は保子が相続すること」
日付:令和2年2月1日
〈2通目の遺言書〉
「収益用マンションは浩一と修二に相続させる。預金は恵美に相続させる」
日付:令和5年4月1日
修二「なんだこりゃ。どっちが正しいんだ?」
恵美「あら父さんったら、気が変わったのね。たぶん、こっちの新しい日付の遺言書が正式なものよ」
浩一「う~ん……俺もそう思うけど自信ないな。とりあえずこういうことに詳しい知り合いがいるから聞いてみるか」
「遺言書」作成時の注意点
遺産は原則、相続人間の遺産分割協議により、法定相続割合または任意の割合で分割することとなっています。
ただし、特定の割合で遺産を分割したい場合、被相続人(今回の場合正さん)による「遺言書」の作成が有効な手段のひとつです。
遺言書には、大きく分けて下記の3種類があります。
1.自筆証書遺言
2.公正証書遺言
3.秘密証書遺言
今回、正さんが作成していた遺言書は自筆証書遺言でした。自筆証書遺言は、自身で作成できるため自由度が高いというメリットがあります。一方、有効な遺言書の要件を満たしていないと効力がなくなってしまうため注意が必要です。
下記のような場合、遺言書が無効となります。
・遺言書の方式に不備がある
※全文、日付、氏名を自筆し、押印が必要。ただし財産目録はPCで作成可
・内容が不明確でよくわからない
・内容が公序良俗に反している
・認知症などで判断能力が低下しているときに作成されている
・脅迫されたり、騙されたりして書いている
・偽造されている
上記のとおり、自筆証書遺言は作成のハードルが低い分、要件が満たされていない、偽造されているなどといった理由で無効となるケースも少なくありません。こうしたリスクを解消してくれるのが「公正証書遺言」です。
公正証書遺言は公証役場で2人の証人立ち合いのもと作成しなければならないため、手間と時間と費用がかかります。しかしその分、遺言書自体が無効になることはなく、また役場が遺言書を保管してくれるため、紛失の心配もありません。