年を取ると若いころに抱えていた願望に追い立てられることがなくなり、時間の流れが変化します。明治大学教授の齋藤孝氏は、老後において大切なのは、長いスパンで物事をポジティブに楽しむこと。いわば「退屈に耐えられる力」が重要なのだと言います。齋藤氏による著書『60代からの知力の保ち方』(KADOKAWA)より一部抜粋・編集して詳しくご紹介いたします。

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時間があること=怠惰ではない…セカンドライフを充実させる「退屈力」というキーワード【明治大学教授・齋藤孝氏が解説】
「退屈力」が生む豊かさ
退屈は敵ではありません。時間ができたことを、怠惰であるかのように自責するために、不要な強迫観念に苛まれるのです。60代からは、いわば「退屈力」が必要になります。
退屈力とは退屈に耐えられる力、一見退屈に思える作業を前向きに楽しむ力です。武道は、型の習得から始まります。型の習得には根気が必要で、うまずたゆまず練習を続けなければ型は身につきません。基本を自分のものにするために、地道なトレーニングが必要ですが、これは退屈力のトレーニングと言い換えることもできます。
退屈力は、セカンドライフを豊かにするキーワードです。追い立てられることのないゆったりした時間の中で上達を目指し、丁寧に作業を繰り返すことで、自分の時間を濃密にし、その道の奥義に近づくことができる。重要なのは上達するスピードではなく、いかにそこで喜びを味わえるかです。
私の父は60歳を過ぎてから、本格的に書道を始めました。師範の免状を取りました。同時にもっと気楽な趣味として、模型作りを始めました。それがしんどくなると、1,000ピースのジグソーパズルを、酒を片手に楽しんでいました。
加齢の寂しさや孤独感を味わう代わりに焦りがないのが、若い頃との違いです。若い時は、社会から認められたい、自分の力を発揮したいなど、さまざまな願望が複合的に絡み、常に焦りにつきまとわれます。死は広い意味で運命ですから思い悩む必要はありません。誰もに訪れます。
私は45歳の時病で死にかけてから、それ以降の人生は余生、ご褒美期間という意識が生まれ、身軽になりました。会社の看板がなくなり社会的地位から離れたら、誰しも寂しさを感じます。その孤独感はあなた独自のものではありません。