部下から“ケチおじ”と陰口をたたかれるほどの倹約家だった元銀行員のAさんは、定年退職にともなう社宅退去を機にマイホームを購入します。しかし、“予想外”の出来事によって購入早々「買わなきゃよかった」と後悔することに……いったいなにがあったのでしょうか。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが、事例をもとにマイホーム購入時の注意点を解説します。※プライバシー保護のため登場人物等の情報を一部変更しています。

あだ名は“ケチおじ”…〈年金月24万円見込・貯金6,800万円〉倹約家の60歳元銀行員、定年のため社宅を退去→“念願のマイホーム”購入も「買わなきゃよかった」と涙目のワケ【CFPの助言】
日本人の「退職金の使い道」は…
一般社団法人投資信託協会「60歳代以上の投資信託等に関するアンケート調査結果サマリー2022年(令和4年)3月」によると、退職金の使い道は下記のとおりでした。Aさんのように、住宅購入費用にあてる人は少数派のようです。
■預貯金……59.3%
■日常生活費への充当……25.6%
■旅行等の趣味……21.7%
■住宅ローンの返済……20.8%
■資産運用のための金融商品の購入……20.3%
■住宅のリフォーム……19.0%
■家電品など、耐久消費財や結婚費用等……11.0%
■子どもや孫の教育費や結婚費用等……8.3%
■開業・起業資金……1.8%
■その他……3.5%
老後が危ない…せっかく買った「自宅」は売るしかない?
筆者はAさんから一連の話を聞き、今後の家計収支について試算を行いました。
「現在約1,300万円の貯蓄を、年金受給が始まる65歳までの5年間均等に取り崩すとすると、使えるお金は1年間あたり260万円、月に約21万6,000円です。65歳以降はAさんの厚生年金が月24万円、奥様が65歳になる69歳以降は夫婦あわせて月30万円の年金受給が見込まれます。この金額で生活はできそうですか?」
筆者がこう尋ねると、Aさんは肩を落として言いました。
「マイホームを買ったことで、毎月30万円はみておく必要があります。妻の年金受給が始まるまで約10年ありますが、そこまで使える金額が20万円強というのは厳しいかもしれませんね」
しばらくの間沈黙が続き、やがて涙目のAさんがつぶやきました。
「やっぱり、せっかく買った家だけど、売るしかないか……。買ったばかりの新築ですから、5,000万円くらいで売れますかね?」
「使えるお金を増やすとなると、たしかに売却も選択肢のひとつです。しかし、不要な支出を減らしたり、Aさんが働いて給与収入を得たりするなど、売却せずにお金をつくる選択肢もあります。まずは現在の支出に無駄がないか精査してみましょう」
しかし、さすが倹約家の家計です。なかなか削減できそうな支出はありません。ただ、保険を見直したところ必要以上の保障に加入していたことがわかりました。保険の見直しを含めて毎月約4万円を削減できることがわかったところで、Aさんとの面談は終了しました。