家の借金返済のため、17歳という若さでマグロ漁船員になった筆者。マグロ漁船での仕事にも徐々に慣れ、先輩の後押しで危険な作業にも挑戦していきます。船員の給料は水揚げ金額によって大きく左右されるといいますが、どれほどの差があるのでしょうか。菊地誠壱氏の著書『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』(彩図社)より、詳しくみていきましょう。

マグロ漁船も悪くないな…親の借金5,000万円返済に挑む17歳〈マグロ漁船員〉が手にした“驚きの給与額”【実体験】
男ならチャレンジしたい…マグロ漁船のなかでも特に危険な仕事
そんな相変わらずのひろしに対して、私はさらに仕事を覚えていきました。まだ三枚下ろしもハンドルもできなかったのですが、それでも私は一つ一つ仕事のスキルを磨いていきました。
そんな私が英雄さんや安広くんに背中を押され、ごくまれにハンドルの仕事をさせてもらうことがありました。ハンドルは縄を巻き揚げるラインホーラーを、レバーで操る仕事です。太いレバーを上げれば巻き揚げ、下げれば止まるという仕組みになっています。
ただし油圧の強い力で巻き揚げるので、操作を間違えればブイでも浮き球でも何でも巻き揚げてしまいます。もつれの針が飛んできて首に刺さってそのままラインホーラーに巻き込まれて死んだとか、浮き球が顔面に当たって骨が陥没したとかいう恐ろしい事故の話も聞きます。死亡事故がとりわけ多いのはこのハンドルですが、だからといってできませんでは通用しないので、練習のつもりでハンドルの操作を行うことにしました。
「交代お願いします」
「せー、おめーできるのか?」
「大丈夫です!」
こうして私はハンドルの操作をする決意をしました。ハンドルなんて嫌だと逃げればいいし、やりたくないと言えばそれまでです。自分だけでなく周りの人間までも危険な目に遭わせる可能性があるから、嫌と言えばみんな納得します。実際、ハンドルはやらないという船員もたくさんいます。
でも、やっぱり男ならチャレンジしたい。そう思った私は、ハンドルの人の後ろから交代と言って代わってもらいました。心臓がバクバクして、胃袋が口から出そうなほど緊張しました。なぜならブリッジから船頭がすべてを見ているからです。
マグロが掛かっていたら、ハンドルの人がいち早く縄を外させて引っ張らせなければいけません。周りの音、縄の張り、縄の角度、とにかく五感を研ぎ澄ませてマグロを狙います。とはいえマグロばかりに気をとられて縄をゆっくり巻いたり、マグロじゃないかと止めてみたりしていると、「早く巻げ! 寝る暇なくなる!」とか大声で怒られました。
メリハリが大事な仕事なので、下手な人にはさせられません。手抜きの許されない難しい仕事なのです。
あるとき、ハンドルの仕事をしている私に触発されたのか、ひろしがハンドルに入りました。するとすかさず船頭がブリッジから顔を出して、「やめさせろ! やめさせろ!」と烈火の如く怒りだしたので、ひろしのハンドルはそれから二度と見られませんでした。
おじと甥の関係もときには厄介なものだと、ひろしがかわいそうに思えてきましたが、釣り針が刺さって死ぬようなことがあっては大変なので、船頭の気持ちも少しわかりました。