A夫婦に老後破産の心配はない。しかし…

A夫婦の家計に話を戻すと、現在A夫婦の支出は月34万円ほど。ここに物価上昇を考慮して支出額が毎年2.0%ずつ上昇していくと仮定すると、Aさんが70歳時点での支出額は月に約39万円まで増えます。

とはいえ、70歳から1年ごとに月5,000円ずつ支出額を減額できれば、Aさんが100歳の時点で300万円ほどの貯蓄が残る見込みです。

ただし、70歳以降も物価の上昇が年間2.0%以上続くようであれば支出額を抑えなければなりません。よって、たとえ半値の500万円であっても援助すべきではないでしょう。

さらに、Cさんが7,000万円の住宅ローンを変動金利年0.5%で30年間返済する場合、完済まで金利が変わらないと仮定しても、返済額は月に約21万円となります。これはCさんたちが支払っている家賃の約1.5倍です。

「息子の年収は詳しく知らないが、いまの家賃の1.5倍というのは心配だな……ちょうどよかった。早速息子にこの話をして、本当に持ち家が必要かどうか考えさせます」

そういいながらAさんが席を立つと、妻のBさんが「まったく、酒に酔って出来もしないことを約束して、情けない……Cがかわいそうよ。きちんと謝ってくださいね」とピシャリ。

Aさんは反省した様子で、Bさんと一緒に事務所を後にしました。

“夢のマイホーム”はいったん白紙…C家の反応は

その週末、Aさんは遊びにきたC夫婦に、次のように言いました。

「この前1,000万円を贈与するといった件だが……。申し訳ない、白紙に戻してほしい」

「え!? 父さん、約束が違うじゃないか! もうローンの手続きを進めているところなのに、いまさらなにを言ってるんだよ!」

Aさんは申し訳なく思いつつ、FPに相談したことやその結果について、丁寧に伝え直しました。

「お金のプロに試算してもらったんだが、1,000万円も2人にあげるお金はないそうなんだ。お酒の勢いで無責任なことを言ってしまって、本当に申し訳ないと思っている。200万円までなら頑張れそうだが……。C、妻さん、賃貸を出るつもりならもう一度同居を視野に入れてくれないか?」

その日は肩を落として帰宅していったC夫婦でしたが、しばらくしてAさんのもとに連絡がありました。聞けば、マンション購入はいったん諦めることにしたのだそう。そして、A夫婦宅の2階に住みたいとの申し出がありました。

親子で「お金の話」をする前に…

いくら血のつながった家族であろうと、先走ったお金の話は厳禁です。仲の良かった家族がお金の話をきっかけに揉めてしまうというケースは少なくありません。今回は丸く収まった事例を紹介しましたが、似たような状況から最終的に「絶縁した」という悲しい話も聞きました。

いうまでもなく、生前贈与は「自分たちの生活が成り立つ」前提です。将来どれほどのお金が必要となるのか、何歳までにどれくらいのお金を使うかをシミュレーションしたうえで冷静に判断しましょう。


牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員