50代後半からの再就職の現実…「元の会社に戻りたい」

資産が減り続ける中、Aさんは再就職活動を開始するしかありませんでした。しかし、55歳以上の転職市場の厳しさを痛感することになります。

厚生労働省の調査(2024年)によれば、55〜59歳の男性の転職入職率はわずか5.7%。転職できても年収は大幅ダウンが一般的で、同年代の転職者で年収が増加したのは20.5%。つまり、5人に4人は年収ダウン、良くて維持というデータもあります。

Aさんも例外ではなく、営業職の経験があるとはいえ、応募しても書類選考すら通りません。応募する企業のほとんどが「経験豊富な若手」を求めていたからです。結局、数カ月間の求職活動の末、ようやく見つけたのは年収300万円程度の契約社員の仕事でした。

「元の会社に戻りたい」と後悔しても、すでに後の祭り。恥を忍んで人事担当に相談するも「一度辞めた人を再雇用する枠はない」と冷たく断られてしまいました。

早期退職を後悔しないために

Aさんのケースは決して珍しいことではありません。自由を夢見て退職したものの、現実は厳しく、経済的に困窮するケースは少なくありません。では、同じ失敗をしないためにはどうすればよいのか、重要なポイントを3つお伝えします。

・投資だけに頼らない資産形成を
投資は資産形成の一つの手段ではありますが、それだけに頼るのはリスクが大きすぎます。Aさんのように株やFXで一時的に資産を増やしても、それが長く続く保証はありません。リスク管理を徹底し、安易な退職願望は捨てた方が賢明です。

・セカンドキャリアの準備
退職前に副業を始めて収入力の検証をしておくこと、転職エージェントに相談して自分の市場価値を確認しておくこと、など退職後から年金受け取りまでの期間の収入の道を確保しておくことも重要です。

・家族の介護リスクへの備え
親の介護費用は親の資産で賄うことが原則ですが、Aさんのように負担する可能性も少なくありません。親の年金額を含めた資産を把握できれば、経済的サポートが必要かの目安になります。また、兄弟姉妹がいる場合は、必要であれば費用分担を話し合っておきたいところです。

Aさんのように「投資で稼げる」という期待だけで早期退職を決断するのは危険です。まずは在職中に副業で収入力を試し、スキルアップと人脈作りを進めることも、後悔しない退職への近道と言えるでしょう。

三原 由紀
プレ定年専門FP®