「退職金」は一度にまとまった資金が手に入ることから、その使い道が老後の人生を大きく左右します。なかには、普段の人柄からは想像もつかないような“大胆な行動”を起こした結果、取り返しのつかない大惨事に発展するケースも……。真面目な元公務員男性の事例をもとに、詳しくみていきましょう。元証券マンの倉橋孝博CFPが解説します。※プライバシー保護のため、個人情報の一部を変更しています。

どうか夢であってくれ…38年間ひたすら真面目に働いた61歳・元公務員「退職金2,500万円」を定年後“わずか1年”で失ったワケ【CFPの助言】
少しだけなら…真面目なAさんが「マネープラン講座」に参加した結果
気温36.2℃。うだるような暑さが続く2024年8月5日。Aさんはこの日を生涯忘れることができないだろう。この日、1年前に受け取った退職金2,500万円が、灼熱の太陽のもとで灰のように消えたのだ。
――Aさんは大学卒業後、地元の市役所に就職し、38年間勤めあげた。多少頑固なところもあり、ときには同僚と熱い議論に発展することもあったが、生まれ育った故郷を支える仕事にはとてもやりがいを感じ、懸命に働いてきた。
2023年3月、60歳で定年退職。退職金は2,500万円だった。住宅ローンは繰り上げ返済を数回行って完済。Aさんには2人の子どもがいるが、すでにどちらも大学を卒業し独立している。
預貯金も1,500万円あり、退職金と合わせると4,000万円程度のキャッシュがあるため、ある程度ゆとりのあるセカンドライフを送れるはずだ。
資産運用に興味を持ったきっかけは「マネープラン講座」
Aさんには、株式や投資信託といった資産運用の経験はまったくない。たまに同僚が株やiDeCoで儲かった話をしていたが、「俺には関係のない話だ。自慢話は聞きたくない」と、あまり気にしてこなかった。
そんなAさんが資産運用に関心を持ち始めたきっかけは、定年を3ヵ月後に控えたある日、勤務先で受講した「マネープラン講座」だった。
その講座では、公的年金制度や所得税の計算方法の説明のほか、退職後の家計のポイントや老後の資産運用の重要性などについても助言を受けた。
なかでも、講師がひときわ熱弁をふるっていたのが「NISA」だった。
「一定の金額までなら、株でいくら儲かっても税金がかからないんです。通常100万円儲かっても、そのうちの約20万円は税金として国に持っていかれます。しかし、NISAであればその100万円がすべて自分の儲けとなるのです!」
威勢のいい語り口調が耳に残る。Aさんが思わず感心していると、隣の席にいたKさんも「Aさん、NISAやってないの? 絶対やったほうがいいよ!」と勧めてくれた。KさんはNISA以外にも特定口座で株式投資をしており、1,000万円近く運用しているという。アベノミクス相場では200~300万円儲かったそうだ。
「退職金は2,500万円ぐらいあるし、そのうち100万円ぐらいなら株を買ってみてもいいかもな……」
Aさんは株式投資に少し前のめりになった。