「退職金」は一度にまとまった資金が手に入ることから、その使い道が老後の人生を大きく左右します。なかには、普段の人柄からは想像もつかないような“大胆な行動”を起こした結果、取り返しのつかない大惨事に発展するケースも……。真面目な元公務員男性の事例をもとに、詳しくみていきましょう。元証券マンの倉橋孝博CFPが解説します。※プライバシー保護のため、個人情報の一部を変更しています。

どうか夢であってくれ…38年間ひたすら真面目に働いた61歳・元公務員「退職金2,500万円」を定年後“わずか1年”で失ったワケ【CFPの助言】
NISA好調…市場活況を追い風に「特定口座」でも投資を開始
3ヵ月経ち、Aさんには予定どおり2,500万円の退職金が振り込まれた。入金欄に「2,500万円」と印字された通帳を見ると、約40年間の苦労が報われた気持ちで胸が熱くなる。
そのころ、日本の株式市場も熱を帯びていた。米株式相場の上昇を手がかりに、日経平均株価は4月に2万8,000円超え。さらに、著名投資家のウォーレン・バフェットが日本株投資を拡大、生成AIChatGPTの開発にあわせ米半導体大手エヌビディアが急騰するなど、話題に事欠かなかった。Aさんも、気になっていたNISAを始めるべく、ネット証券に口座を開設した。
AさんがNISAを利用してはじめて株を買ったのは、2023年8月上旬のことだ。「業績も配当も安定しているし、しばらくつぶれることはないだろう」という理由で、大手自動車メーカーTを選んだ。2,400円で400株、96万円の投資だ。
はじめての株式投資にドキドキしていたAさんだったが、これがビギナーズラックというものか、株価は瞬く間に値上がりし、わずか1ヵ月余りで2,900円まで上昇。Aさんは短期間で20万円もの利益が出た。
これに気をよくしたAさんは、特定口座でもう少し投資金額を増やすことにした。
「Kさんの半分、500万円くらいなら、老後の暮らしに大きな影響はないだろう」と考えたAさんは、ウォーレン・バフェットが買ったとされる大手商社Mを200株(約150万円)、エヌビディア祭りに沸く日本の半導体関連銘柄Lを100株(約220万円)、先に購入していた大手自動車メーカーTと合わせて、約470万円の投資をすることにした。
海外からの投資マネーが大量に流入したことから、株式市場は2023年秋口から2024年初夏にかけてさらなる活況を呈する。日経平均株価は2024年7月11日に史上最高値4万2,426円をつけ、Aさんが購入した3銘柄も上昇を続けた。
Aさんが投資した470万円は一時830万円まで増え、特に半導体関連銘柄Lは、生成AIブームに乗り株価が2倍になった。
こうなると世の中も浮足立つ。テレビや新聞では連日株価上昇が伝えられ、投資家が集うBARの様子がニュースで流れた。
「どれくらい儲かっていますか?」という記者の質問に、平然と「1億円を超えてますね」と答える若いサラリーマンの姿も。
Aさんは、この「1億円」という数字に魅せられてしまった。
「このまま投資を続けていれば、公務員時代は夢にも思わなかった『億り人』になれるかもしれないな」