「退職金」は一度にまとまった資金が手に入ることから、その使い道が老後の人生を大きく左右します。なかには、普段の人柄からは想像もつかないような“大胆な行動”を起こした結果、取り返しのつかない大惨事に発展するケースも……。真面目な元公務員男性の事例をもとに、詳しくみていきましょう。元証券マンの倉橋孝博CFPが解説します。※プライバシー保護のため、個人情報の一部を変更しています。

どうか夢であってくれ…38年間ひたすら真面目に働いた61歳・元公務員「退職金2,500万円」を定年後“わずか1年”で失ったワケ【CFPの助言】
「億り人」を目指して…“真面目な”Aさんの次なる一手
HPなどで調べていると、億を超える利益はその多くが「信用取引」から生み出されていることがわかった。
信用取引とは、証券会社に株券や現金などを担保として提供し、お金を借りて株を買う仕組みのこと。お金は担保の3倍近くまで借りることができる。
「億り人」に魅せられたAさんは、この信用取引に手を出した。冷静な人であれば「そんなハイリスクな取引を安易に始めるはずがない」と思われるだろうが、これが欲の恐ろしさだ。欲に駆られてしまった人は冷静な判断ができなくなる。Aさんに限らず、すべての人にいえることだ。
2024年6月、Aさんは残りの退職金で、別の半導体関連銘柄Eを500株(約1,750万円)購入した。このEと、すでに購入していたLおよびMを担保にした。
信用取引で購入したのは、自分がこの1年間値動きを見続けてきた半導体関連銘柄のL。1,000株(3,300万円)の投機だった。半導体関連銘柄のEとLが上昇すれば、Aさんも「億り人」に近づくはず、だったのだが……。
投資後わずか1年で…退職金が“水の泡”に
マーケットは数週間一進一退の展開を続けたが、8月に入るとアメリカの景気下振れ懸念と、日本銀行の利上げの影響で暴落が始まる。Aさんの状況も急速に悪化し、特にEとLはわずか数日で30%超の値下がりとなった。
8月2日、信用取引で購入したLは2,260万円まで値下がりし、評価損が1,000万円以上発生していた。
この評価損を加味した実質担保は350万円余りしかなく、証券会社から翌々営業日の正午までに310万円入金するようにとメールが届いた。いわゆる追加保証金(追証)である。
Aさんは恐怖に駆られ、とにかく早く楽になりたかった。翌営業日の8月5日、追証を入れることなく、担保も信用取引のLもすべて売却。
残ったのは、380万円余りの現金とNISA口座の大手自動車メーカーTの200株のみ。2,500万円の退職金の大部分が消えた。