新NISAがきっかけで本格的に株式投資をはじめた65歳男性

「怖かった……」

田中浩司(仮名・65歳)は、か細い声でつぶやいた。

2025年4月7日(月)、トランプ関税ショックは世界中のマーケットを震撼させ、日経平均株価も2,644円の大暴落。この日、田中は株式投資の「恐ろしさ」を、大金を払って知ることになった。皮肉にも外は満開の桜。65年の人生でこんなにも苦々しい桜は初めてだった。

――田中が本格的に株式投資を始めたのは、その7ヵ月前、2024年9月に遡る。

それまで投資経験はほとんどなく、5年前に父親から相続した地方銀行Hを2,000株、時価にして約220万円(2024年9月時点)をネット証券に預けていた程度。半年ごとに振り込まれる配当金を楽しみにしているくらいのもので、ほぼ初心者といっていいだろう。

ところが、そんな田中の投資マインドを、「新NISA」がしだいに熱くしていく。新NISAは旧制度からいくつかのリニューアルポイントがあるが、田中がもっとも魅力を感じたのは「非課税保有期間が無期限」という点だった。

地方銀行Hからは年間7万4,000円の配当金が支払われていたが、そのうち約20%は税金が源泉徴収されているため、手取り金額は5万9,000円弱。1万5,000円強も差し引かれていることになる。

田中「NISA口座ならその税金は不要だよな。しかも、10年も20年も売るまではずっと非課税で保有できる。これはやらなきゃもったいない」

退職金、株価…投資スタートの“追い風”となった「2つ」の出来事

さらに、新NISAの他にも、投資を始めるのに“追い風”となる出来事が重なっていた。

まずは退職金。8月中旬、42年間勤めた会社(東証プライム上場企業)から約2,000万円の退職金を受け取った。その時点で預貯金は1,000万円あり、合計3,000万円が夫婦2人の老後資金ということになる。毎月10万円ずつ年間120万円引き出したとしても、25年は資産寿命がある計算だ。

住宅ローンも完済しており、夫婦2人の年金月額は25万円。ゆとりがあるとまではいえないが、あまり無駄遣いをしなければ比較的穏やかなセカンドライフだろう。

もう1つは「株価」だ。2024年の夏、マーケットは大きな調整局面を迎えた。8月5日には日経平均株価が前日比4,451円安となるなど、歴史的な急落が世間を騒がせていた。

ところが、地方銀行Hの株価をほとんど気にしていなかった田中にとって、この暴落は対岸の火事。結果的に絶好の買い場となる。もちろん、7ヵ月後に自身がパニックに巻き込まれることは、まだ知る由もないのだが……。