家の借金を返済するため、高校を1年で中退しマグロ漁船員になった筆者。3つの船で近海マグロ漁を経験すると、初めての遠洋マグロ漁船に誘われます。そこでは、今までやったことのない作業があったり、他の船員から暴力を受けたりと、悩み事も多かったとか。菊地誠壱氏の著書『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』(彩図社)より、詳しくみていきましょう。

テメー、陸に上がったら見てろよ!…“パワハラ上司”に啖呵を切った17歳「マグロ漁船員」の末路
パワハラに「我慢の限界」の筆者がとった驚きの行動
操業が始まると「何やってんだ!」「バガこの!」とボースンに怒鳴られまくります。そして「バガ野郎!」とケツを蹴られる。毎日こんな感じでした。たまにタバコをもらうこともありますが、暴力と暴言が続いてとてもキツかったです。
ボースンはもちろん仕事はできますし、遠洋マグロ漁船で1年航海とかをやってきたベテランでした。マグロ漁船員はだいたい箔をつけるために10か月や1年という長い航海に行き、ケープタウンや大西洋での本マグロ漁を経験して、こうした航海期間の短い船で役職つきで働いているのだと思います。それくらいメンツにこだわる一面があります。
ボースンから暴力を振るわれるだけでもキツいのですが、最悪なことに、このボースンと投縄チームで一緒でした。
毎回投縄の日になるとボースンと投縄をするので、そのたびにパワハラを受けていました。
「バガこの! 何やってんだこのポンスケ!」
毎回こんな感じで言われるので、私もふつふつと怒りが込み上げてきました。そしてついに我慢できなくなり、ある日の投縄が始まった夜、とうとう言ってしまいました。
「テメー、陸に上がったら見てろよ! ただじゃおかねえからな!」
まるで捨て台詞のように喧嘩を売りましたが、その場を立ち去るわけでもなく、私は餌投げ、ボースンはスナップ掛けを続けていました。するとボースンはスナップのついたブランを振り回し、器用にも先端のスナップで私の顔をぶっ叩きました。
「いでー!」
激しい痛みに顔を押さえると、こめかみにスナップが当たって流血していました。痛いし熱いし、わけがわからない状況でした。その後も無理やり投縄を続け、後からボースンに説教されました。このときのボースンは怒鳴るわけでもなく、諭すように静かに話してきました。
「バガだな、おめえは。もうあんなこと言うなよ」
船のオモテで傷に絆創膏を貼ってもらいました。
「はい、すいません」
私も殴り掛かって喧嘩しても構わないのですが、なんせ海の上ですから落とされたらひとたまりもありません。そうやってふと冷静に考えられたので、それ以上は事を大きくしませんでした。
でも、窮鼠猫を噛むと言うように、追い詰められたら噛みつくぞ! というところを見せられたのは満足でした。よくやった、俺! そんなふうに自分に言い聞かせ、寝台で毛布にくるまりました。
その後もパワハラは続きましたが、前よりは少なくなったような気がします。気のせいだったかもしれませんが。
菊地 誠壱
元マグロ漁船員/Youtuber