夫の急逝により、2人の子どもと3人での生活を余儀なくされた専業主婦のAさん。その後、親戚から「遺族年金」の話を聞いたAさんは、年金事務所へ相談へ行くことに。すると、職員から「予想外の回答」が……。いったいなにがあったのか、事例をもとに“遺族年金の落とし穴”をみていきましょう。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPが解説します。
なにかの間違いでは…年金月17万円のはずが、2歳年下の夫を亡くした48歳専業主婦、まさかの〈遺族年金額〉に悲鳴「聞いていた話と違う!」【CFPの助言】
「遺族基礎年金」を受給するための要件
遺族基礎年金と遺族厚生年金には、それぞれ受給に必要な要件があります。
まず「遺族基礎年金」の支給要件は、故人に18歳年度末までの子(一定の障害のある子の場合は20歳未満の子)がいることのほか、故人がその死亡当時、下記4つのうちいずれかに当てはまっている必要があります。
①国民年金の被保険者であること
②60歳以上65歳未満の国民年金の被保険者であった人で、日本国内に住所があること
③老齢基礎年金の受給権者(受給資格期間が25年以上あることが条件)であること
④老齢基礎年金の受給資格期間(25年以上)を満たした人
Bさんにはいずれも18歳以下の子どもが2人おり、Bさんは死亡当時、個人事業主で第1号被保険者であったことから、①に該当します。
また、①②については、一定の保険料納付要件を満たしている必要があり、保険料の未納期間が多いと要件が満たせなくなりますが、Bさんの場合、死亡の前々月までの直近1年間に国民年金保険料の未納期間もないことから、この納付要件はクリアしていました。
そのため、のこされた妻であるAさんは、既定額の遺族基礎年金を受け取ることができます。
「遺族厚生年金」を受給するための要件
一方「遺族厚生年金」の支給要件は、故人がその死亡当時、下記4つの支給要件のうちいずれかに当てはまっている必要があります。
①在職中(厚生年金加入中)であること
②在職していなくても、在職中(厚生年金加入中)に死亡の原因となる傷病の初診日があって、初診日から5年以内であること
③障害厚生年金の受給権者(障害等級1級・2級)であること
④老齢厚生年金の受給権者または受給資格期間を満たした人(いずれも受給資格期間が25年以上あることが条件)であること
なお、①②については遺族基礎年金と同様の保険料納付要件を満たす必要があります。
Aさんが「遺族厚生年金」を受け取れない理由
Bさんは会社を退職して厚生年金未加入中の死亡であり、死亡原因について在職中に初診日もなく、また、障害厚生年金の受給権もないため、①②③いずれも満たしていません。
残るは④ですが、④の25年以上必要な受給資格期間については、会社に勤務している厚生年金加入期間のほか、国民年金第1号被保険者期間としての保険料納付、免除期間もこれに含まれることになります。
しかし、Bさんは厚生年金の加入期間として20年、脱サラ後の第1号被保険者としての国民年金保険料の納付期間が3年でした。
そのため、受給資格期間は合計23年しかありません。というのも、Bさんは学生時代、20歳から23歳の間、国民年金保険料を未納にしていました。この「未納期間」が響き、④の要件である25年に満たなかったのです。
よって、Aさんは遺族厚生年金を受け取ることはできません。
Fさんが遺族厚生年金を受給できたのは、Fさんの夫が在職中(厚生年金加入中)に死亡という①の要件を満たしていたからだそうです。
こうしてAさんは、予想では遺族年金が月17万円以上支給されるはずが、遺族基礎年金+遺族年金生活者支援給付金で月11万円程度の支給となりました。
人生の「転機」は、“万が一”のことも考えて計画を立てて
遺族年金の支給には、亡くなった人自身の要件があります。
必要な要件を満たさないと、たとえ対象となる遺族がいても支給されないことになります。退職・独立という大きなライフイベントがあると、その後の自身や家族のための資金計画にも影響があります。
遺族年金のことを含め、万が一、自身が亡くなったときのことも想定しておきたいところです。
五十嵐 義典
CFP
株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役
