新人は犬だから、しつけが肝心…いじめの裏にある“下賎な狙い”

シングルマザーのMさんは、介護福祉士の資格を取得し、株式会社の経営するサービス付き高齢者住宅で正社員として働き始めた。この施設で経験を積み、将来的にはケアマネージャーの資格を取ることを目指していた。

ところが、先輩の介護士から、シングルマザーであることを理由に「男に色目を使っている」と誹謗され、男性の職員と話していると「またデートの誘い?」と繰り返し嫌がらせを受けた。

さらにこの先輩介護士は、「新人は犬だから、しつけが肝心」「犬よりたちが悪い」と言い放ち、指示通りに動いても理不尽に𠮟責した。

朝9時が始業時間だったが、8時半に来るよう指示され、「子どもがいるから9時にさせてほしい」と相談すると、「子どもがいるから何なんだ」と𠮟られた。残業も頻繁にあり、終業時間が20時になることもよくあったが、残業代は払われなかった。

他の職員も、連続40時間勤務をすることがあったという。

実は、この職場では、先輩の介護士によるいじめは珍しいことではなく、新人に対して恒常的に行われ、これまでにも何人も辞めているということをMさんは知らされた。この「しつけ」に耐えきれない職員は、未払い残業にも耐えられないとして淘汰されるというわけだ。Mさんはストレスで不眠症と摂食障害に悩むようになり、休職することになってしまった。

介護職場に「劣悪な労働環境」が多い理由

介護職場の労働環境の悪化は、2000年の介護保険制度のスタート時から懸念されていた。行政がサービス提供の責任を直接負うのではなく、利用者と事業者の直接契約が原則となり、保育園よりもいっそう露骨に市場原理が導入された。

事業者は、利用者をかき集め、サービスを使わせるほど、行政から介護報酬を支給され、それが主な利益になる。保育園以上に利益目的だけで参入しやすく、株式会社の割合も激増した。

その結果、人件費や備品・設備の徹底的な削減に加え、短時間で数をこなす「効率」重視の不適切なケアを行わせたり、不必要なサービスを詰め込んだりと、介護の質や労働条件を劣化させる事業者が後を絶たない。

追い討ちをかけるように国は、もとから高くなかった介護報酬を、3年に1度の改定の際に、何度も大幅に引き下げた。このため職員の賃金は一向に上がらず、人手不足が加速し、労働条件の悪化、虐待や不正の横行がますます進んでいるのが現実だ。

坂倉 昇平
ハラスメント対策専門家