令和3年総務省の「地方公務員給与実態調査結果」によると、令和3年時点で25年以上勤続した場合の教員の退職金平均額は約2,257万円でした。定年はまとまった資金が手に入るタイミングですが、ここで浮かれた結果“取り返しのつかない失敗”をしてしまう人も……。具体的な事例をもとに、老後破産危機に陥る原因と回避策についてみていきましょう。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。
俺に投資の才能があったとはな…退職金2,500万円の60歳元校長〈新NISA〉の運用益にご満悦→定年後1年で1,500万円を失う悲劇。元凶となった「同僚からの誘い」に後悔が止まらない【FPが解説】
なんだ、楽勝じゃないか…運用に“目覚めた”Aさんの暴走
「なんだ、楽勝じゃないか。まさか俺に投資の才能があったとはな……こんなことならもっと早くに始めておけばよかった」
Aさんは予想以上の運用成績にご満悦です。
その後「投資で重要なのは分散投資だ」と考えたAさんは、より高い利回りを求めて「新興国債券」にも幅を広げます。
さらに、同僚のBさんがSNSで見つけたという投資グループにも加入。「優秀なプログラマーが組成した自動売買ツールだから必ず儲かるらしい」というBさんの言葉を信じ、FXにも手を出しました。しかし……。
ちくしょう、だまされた!…“目覚めた”Aさんの致命的な失敗
最初のうちは順調に利益が出ていたものの、高い利回りを謳う銘柄には「リスク」がつきもの。新興国債券は含み損が膨らみ、Aさんは「聞いていた話と違う」と慌てて損切りしました。
また、FXについては「必ず儲かる」といわれて始めたにもかかわらず、ロスカットになってしまいました。グループのメンバーとも連絡が取れなくなり、その後も成績は振るわず、2,500万円あった退職金はどんどん目減りしていきます。
Aさんは、残っていた資金をFX口座から出金しようと手続きを行いましたが、いつまで経っても出金が完了しません。
「くそっ、退職金を受け取ってまだ1年も経っていないだぞ! これからどうすればいいんだ……ちくしょう、だまされた!」思わぬ老後破産危機に、Aさんは夜も眠れません。
「FX詐欺」に遭うシニア層が増えている
近年、さまざまなメディアで資産運用に関する情報が流れています。超高齢社会の日本においても、老後の生活に備えて資産運用を検討することはよいことでしょう。しかし、投資家人口の増加にともない、欲をかいて冷静な判断力を失い「大切な資産を溶かしてしまった」という悲劇も増えています。
特に、FX取引については注意が必要です。今回、AさんはSNS上の投資グループの人物に誘われるがままFX取引を始めてしまいましたが、シニア層がこうしたFX詐欺に遭うケースが増加しています。
実際、独立行政法人国民生活センターによると、2023年度における全国の消費生活センター等に寄せられたFX取引に関する相談件数は、前年度の同時期と比べて約1.5倍に増加。また契約者の年代別にみると、2020年度以降若干の増減はみられるものの、2020年度と比べて30歳代以下の割合が減った一方、50歳代以上の割合が増加しています。
さらに、日本弁護士連合会の報告によると、2020(令和2)年の破産事件は7万8,105件となっており、そのうち投資を原因とするものが1.53%ありました。