なんだ、楽勝じゃないか…運用に“目覚めた”Aさんの暴走

「なんだ、楽勝じゃないか。まさか俺に投資の才能があったとはな……こんなことならもっと早くに始めておけばよかった」

Aさんは予想以上の運用成績にご満悦です。

その後「投資で重要なのは分散投資だ」と考えたAさんは、より高い利回りを求めて「新興国債券」にも幅を広げます。

さらに、同僚のBさんがSNSで見つけたという投資グループにも加入。「優秀なプログラマーが組成した自動売買ツールだから必ず儲かるらしい」というBさんの言葉を信じ、FXにも手を出しました。しかし……。

ちくしょう、だまされた!…“目覚めた”Aさんの致命的な失敗

最初のうちは順調に利益が出ていたものの、高い利回りを謳う銘柄には「リスク」がつきもの。新興国債券は含み損が膨らみ、Aさんは「聞いていた話と違う」と慌てて損切りしました。

また、FXについては「必ず儲かる」といわれて始めたにもかかわらず、ロスカットになってしまいました。グループのメンバーとも連絡が取れなくなり、その後も成績は振るわず、2,500万円あった退職金はどんどん目減りしていきます。

Aさんは、残っていた資金をFX口座から出金しようと手続きを行いましたが、いつまで経っても出金が完了しません。

「くそっ、退職金を受け取ってまだ1年も経っていないだぞ! これからどうすればいいんだ……ちくしょう、だまされた!」思わぬ老後破産危機に、Aさんは夜も眠れません。

「FX詐欺」に遭うシニア層が増えている

近年、さまざまなメディアで資産運用に関する情報が流れています。超高齢社会の日本においても、老後の生活に備えて資産運用を検討することはよいことでしょう。しかし、投資家人口の増加にともない、欲をかいて冷静な判断力を失い「大切な資産を溶かしてしまった」という悲劇も増えています。

特に、FX取引については注意が必要です。今回、AさんはSNS上の投資グループの人物に誘われるがままFX取引を始めてしまいましたが、シニア層がこうしたFX詐欺に遭うケースが増加しています。

実際、独立行政法人国民生活センターによると、2023年度における全国の消費生活センター等に寄せられたFX取引に関する相談件数は、前年度の同時期と比べて約1.5倍に増加。また契約者の年代別にみると、2020年度以降若干の増減はみられるものの、2020年度と比べて30歳代以下の割合が減った一方、50歳代以上の割合が増加しています。

さらに、日本弁護士連合会の報告によると、2020(令和2)年の破産事件は7万8,105件となっており、そのうち投資を原因とするものが1.53%ありました。